研究課題/領域番号 |
17K03575
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
松本 邦彦 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (40241682)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 植民地 / 外国人 / 教育 / 朝鮮人 / コリアン / 多文化共生 |
研究実績の概要 |
鎌田澤一郎をふくむ植民地朝鮮行政にかかわった人物の戦後の日韓関係、在日朝鮮人政策に与えた影響を調べた。まず、昨期の予想どおり、日韓交渉決裂の一因となった「久保田発言」について、植民地支配の経済的側面を「宥和と培養」として正当化する鎌田の著作から影響を受けたことを久保田自身が明言していることが判明した。ただ、この事実については日韓交渉についての先行研究では管見ながら言及されておらず、今後は鎌田と同じく朝鮮引揚者の他の言論人(御手洗辰雄、中保与作など)の言説の収集もおこなうことで、その意味と重要度を確定していく必要がある。 戦後初期の朝鮮学校、特に総連系の学校について、1)朝鮮独立運動を称揚する教育内容を「反日的」とみるのか「反帝国主義」と見るのか、2)植民地支配とそれにともなう在日朝鮮人の来住という経緯をどう見るのか、3)日本本土での民族教育を権利として見るかどうかというの三つの要素がいりまじって論じられていることがわかった。ただ戦時期の同化政策(皇民化運動)や植民地支配をめぐる引揚知識人の評価や認識がどのように教育行政の当局者の行動や認識に影響しているかについてはまだまだ資料収集が不足している。ただ皇民化運動については、日中戦争激化後の総動員体制のもと日本人に先駆ける形で、そして日本人を上回る熱意で運動が強化されていった状況について論文として公表予定である。 朝鮮学校の処遇についての宮城県と東京都の議会での対応の状況を知るべく議事録の閲読を進めるなかで、設立当初は補助金をめぐって朝鮮学校を支持する総連からの要望と民団からの反対の請願・陳情がおこなわれ、議会としては動きにくい状況があったこと、その後の日朝関係の緊張緩和のなかで地方自治体からの補助が進んだものの、拉致問題が外交問題化するなかで今度は逆に補助が打ち切られていく状況が判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
朝鮮学校の処遇をめぐる議会での審議状況と、世論、識者の主張との影響関係を知るべく、宮城県議会と東京都議会を対象にして議事録の収集と閲読を進めた。そのなかで朝鮮学校への補助金をめぐって要望と反対の陳情・請願がおこなわれていたことがわかったが、具体的な請願・陳情の内容は保存期間の経過により破棄されているなどの資料的限界があり、今後は新聞資料や当事者の記録に当たっていく必要がある。 朝鮮学校の宮城県や東京都による学校認可の資料については、東京都の美濃部都知事による朝鮮大学校認可に関する資料は都庁より関係書類の情報開示をうけたが、宮城県での資料についてはなお収集の努力がなお必要である。 また、戦後について朝鮮学校を論じる識者、とくに朝鮮引揚者の知識人による議論の収集はまだ十分ではない状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2019年度では、ひきつづき上記に関連しての文献の収集と考察を進める。さらに新たな取り組みとしては、宮城県と東京都での朝鮮学校について、また民族教育や多文化共生問題についての地方議員対象の意識調査をおこないたい。 各議会の改選時期が宮城県が2019年10月、東京都が2021年6月と予想されるため、質問紙調査の実施は宮城県議会選挙後の2019年12月頃の実施を予定する。なお議員定数は東京都127人、宮城県59人である。 しかしながら2015年に応募者がおこなった地方政治家の意識調査では、朝鮮学校を有する大阪市議会での回答率が一割程度と非常に低く、さらに現段階では韓国や北朝鮮をめぐる外交情勢のみならず日韓関係までもが緊迫化している状況であり、回答率の向上や接触がむずかしいと判断した場合は、公開されている議会の議事録と公刊資料を主眼とし、特徴的な発言をしている議員への直接面談を追求することで、資料収集をおこない、分析をすすめたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
書籍を購入した際に、割引価格を勘定に入れていなかったために残高が生じたものと思われます。 2019年度の助成金とあわせて、年度末には早期に支出するようにいたします。
|