研究課題/領域番号 |
17K03579
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大串 和雄 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (90211101)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラテンアメリカ / コロンビア / ペルー / 和解 / 人権 / 移行期正義 / 紛争 / 中南米 |
研究実績の概要 |
本研究は、武力紛争または独裁体制を経験した社会における「和解」のあり方について、理論的考察を行うとともに、ラテンアメリカの「和解」問題をめぐるアクターの相互作用を実証的に分析するものである。実証分析の対象国は主としてコロンビアとペルーであり、分析においては暴力の犠牲者(直接被害者の家族を含む)の態度を重点的に考察する。20世紀末以降、世界の紛争に対する国際社会の取り組みが強化され。紛争後の平和構築や移行期正義(紛争・独裁下で行われた深刻な人権侵害、戦争犯罪等への対処)が国際的な課題として注目されている。本研究は、「犠牲者中心の移行期正義」を構想する上で貴重な知見をもたらすことが期待される。 平成29年度には主として、コロンビアとペルーにおける犠牲者の移行期正義及び「和解」に対する意見を収集することに重点を置いた。その結果、以下の暫定的な知見が得られた。 (1) コロンビアでもペルーでも和解を必要だと答える犠牲者が多いが、多くの人は、和解実現のためには真実の解明、「正義」(多くの場合は加害者の処罰を意味する)、加害者の謝罪、賠償、犠牲者の心理的快復などの前提条件が満たされなければならないと考えている。 (2) 犠牲者として最も重視する措置として、コロンビアでは真実の解明を挙げる人が多く、続いて賠償、加害者の処罰の順であったが、ペルーでは失踪者の遺体の回復が最も多く、次に加害者の処罰、国家の謝罪、真実の解明などであった。ただしコロンビアの「真実」には遺体の回復が含まれていると解される。コロンビアでは加害者の刑期の短縮を受け入れる犠牲者が多い。 (3) 左翼ゲリラの暴力の犠牲者と軍・警察の人権侵害の犠牲者との間には不信感が存在する。しかし彼らが一堂に会して互いの経験をつぶさに聞く経験をすると、互いの体験の中に自身と同じ痛みを見いだし、連帯感を持つようになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
犠牲者の意見の収集、とりわけコロンビアの犠牲者の意見の収集が予想を大きく上回る成果を上げることができたため、この評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には交付申請書に記載したとおりである。ただし、コロンビアとペルーで補充調査を実施する必要性を感じているところから、平成31年度の現地調査対象国には変更がありうる(具体的には、アルゼンチンとチリをはずしてコロンビアとペルーにする可能性がある)。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の現地調査は三菱財団の助成金でまかなうことができたので、平成29年度の資金の大半は洋書の購入に充てる予定であった。購入すべき図書の選定を現地調査後に予定していたところ、諸事情により図書の選定に遅れが生じたため、執行が平成30年度にずれ込んだ。前年度から繰り越した分の図書は平成30年度前半に購入する。平成30年度分の使用計画に特段の変更はない。
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備考 |
“Transitional Justice in Latin America: Victims' Needs and Perceptions” 国際セミナー“The Decline of the Western Liberal Order and Its Impact on East Asia”における報告。2018年3月13日、東京大学本郷キャンパス。
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