研究課題/領域番号 |
17K03580
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
西村 もも子 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (00784448)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 投資協定 / 国際政治経済 / 企業と政府 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、投資協定の締結要因を明らかにすることにある。この協定に関する先行研究の大半は、2000年代以前の投資協定を分析対象としており、投資協定の規律内容はどの国・時代のものでも均一であるとした上で、その締結要因を途上国の域内・域外関係だけから説明しているが、本研究は、投資協定の規律内容を決定づけているのは先進国であるという観点から分析を進めている。 研究開始1年目は、投資協定の締結数は1990年代前半に急増したものの、後半以降の年間締結数の増加幅は格段に鈍っており、投資協定を新たに制定するよりも既存の投資協定を改定する動きが盛んになっていること、そして、投資協定の保護対象となる「投資」の範囲の限定、投資協定の規律から外れる例外条項の拡大などの規定を導入することによって、外国企業の投資活動に対する受入国政府の規制権限を強化する動きが盛んになっていることを明らかにした。これは、投資環境の自由化を目指す従来の投資協定とは真逆の保護主義的な方向性を示している。 2年目は、このような投資協定の変容の要因を探った。米国や日本における投資協定の制定や活用をめぐる政治過程の分析を通して、同協定に含まれる紛争仲裁手続(ISDS)を多用する先進国企業とその国の政府との間の選好の不一致が、その変化の要因として挙げられることを明らかにした。 3年目は、妊娠、産休による研究中断を経て、9月から研究を再開した。まず、最新の投資協定に関する先行研究を読むことを通して、先進国の投資協定に関する政策が必ずしも国内企業の要請に基づくものではなく、むしろ政府の担当部局が独自に投資協定の締結を進めているケースが多いことが判明した。このため、なぜ政府の政策が独自に保護主義的な方向へと進んだのか、それに対して各国の多国籍企業はどのような反応を示しているのかという点について分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は出産・産休による研究中断を経て9月に研究を再開したが、職務に追われたこともあり、なかなか研究に十分な時間を費やすことができなかった。また、投資協定の締結に関する政治過程を調査するために、春休みを利用してドイツへの海外出張や国内での担当者へのインタビューを計画していたが、新型コロナウィルス拡大の問題により、実施することができなかった。しかしながら、ここ数年に投資協定をめぐる最新の研究を記した文献が何冊か出版され、それらを読むことを通して、投資協定の締結に対する自分自身の見方を軌道修正させることができた。 本研究は(1)投資協定のISDS手続を利用する企業の業種、提訴理由、相手国との競争関係等に関するデータベースを作成すること(説明変数の抽出)、(2)2000年代以降の変化を踏まえた上で、投資協定の分類を示すこと(被説明変数の整理)、(3)上で抽出した説明変数と被説明変数を計量的に分析し、投資協定の締結要因を明らかにすること、(4)投資協定の締結・改定にをめぐる政治過程の定性的な実証分析、を予定しているが、現段階では、(2)と(4)についてある程度の成果は得られているものの、(1)と(3)に着手するに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
この調査研究については、データベースの作成によって投資協定の実情を明らかにすることが、重要なテーマとなっている。この実現のためには、法学や計量等の専門知識を豊富に有する研究者の協力を積極的に仰ぐことや、データのまとめといった単純作業は学生アルバイトにお願いする必要があるが、新型コロナウィルスの問題により、その準備が滞っている。ただし、最新の先行研究を読んだり、最近の投資協定をめぐる各国の政策を調査するにつれて、投資協定の締結要因を探るためには、計量分析よりも、丹念な政治過程の分析の方が必要なのではないかと考えている。そのため、データ分析にむけた準備が整うまでは、可能なかぎり早急に、政治過程の分析を急ぐ方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究中断からの再開後、研究に十分な時間が取れず、データ作成の作業まで進むことができなかった。また、春休みに予定していた海外出張が、新型コロナウィルスの拡大により中止となった。このため、データ作成に必要となる謝金や出張費が発生しなかった。 ただし、作業を依頼する相手は既に決まっているので、感染症の状況が改善され次第、データ作成や投資協定の法的分析を早急に依頼する予定である。また、海外出張についても、渡航が許される状況になるようであれば、夏季あるいは冬季休暇に実施する予定である。
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