本研究の目的は、投資協定の締結および多様化の要因を明らかにすることにある。投資協定とは、海外で投資活動を行う投資家やその財産の保護、現地における投資環境の自由化などを目的とする条約である。投資協定を政治的見地から分析した先行研究の大半は、1990年代までの投資協定が急増した時期を分析対象としてきた。また、投資協定の規律内容はどの国・時代のものでも一律であると見ていた。しかしながら、本研究では、2000年以降、投資協定降の年間締結数の増加幅は格段に鈍っており、投資協定を新たに制定するよりも既存の投資協定を改定する動きが強まっていること、また、投資協定の保護対象となる「投資」の範囲の限定、投資協定の規律から外れる例外条項の拡大などの規定を導入することによって、外国企業の投資活動に対する受入国政府の規制権限を強化する動きが盛んになっていることを明らかにしてきた。これは投資協定を通した投資の保護や自由化といった従来の動きとは正反対の傾向であり、本研究はこの投資協定の多様化の要因を、米国、EU、日本といった先進国の投資協定をめぐる政治過程の分析を通して探ってきた。特に最終年度では、モデル投資協定の制定をめぐる米国の国内政治の過程の分析を詳細に行なった。その結果、米国の政府、議会、企業、労働組合といった国内主体が、対内直接投資の拡大と対外直接投資の拡大という二つの要素をめぐってどのような選好を有しているか、そしてそれぞれの選好の対立がどのような政策によって解決されるかという点が、投資協定の内容を決定づけていることを明らかにした。また、最終年度では、米国、ドイツ、カナダ、EUといった先進国による近年の投資協定やモデル投資協定の条文を分析し、それぞれの特徴比較検討することを通して、各国の投資協定の規律内容がどのように変化しているのかという点も明らかにした。
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