研究課題/領域番号 |
17K03582
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中野 涼子 金沢大学, 法学系, 准教授 (90781063)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遺産 / ユネスコ / 東アジア / 歴史認識問題 / 文化外交 / 世界の記憶 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ユネスコの遺産事業を東アジア国際政治の文脈の中に位置づける作業をとおして、文化を扱う国際機構が直面する課題を明らかにすることである。とくにユネスコの「世界の記憶」をめぐって起こった東アジアにおける論争をとりあげ、遺産の政治問題化の解明を試みるものである。 4年計画の2年目にあたる本年度においては、ユネスコ「世界の記憶」アジア太平洋会議にオブザーバーとして参加し、ユネスコ関係者や専門家集団などから有益な情報を収集することができた。そのうえで、これまでの研究成果の一部を論文としてまとめ、それをもとに、関連する分野の研究者・実務家と直接交流をもつことに主眼を置いた。この作業は順調に進み、結果的に、「英国学派」における多元主義と連帯主義という国際社会に関する二つの見方に基づく大きな理論的枠組みを土台にしてユネスコの「世界の記憶」の課題について考察した論文1本、遺産のもつソフトパワーという概念を発展させた論文1本を、共に査読付きで英語の国際学術雑誌において公刊した。また、ユネスコの遺産プログラムが東アジアの国際政治問題の舞台となった問題について「存在不安」の概念を援用した試論を発展させ、その成果の一部をイギリス、チェコ、中国、タイの国際学会において発表した。こうした機会は、遺産や国際関係論を専門に研究する人々とのネットワークを広げるうえで有用であり、遺産学、記憶学、国際関係論などの異なる専門分野を架橋するための手がかりを得るのに役立った。日本国内においても、国際会議や国際安全保障学会の研究会で報告するなどして、研究成果を日本語で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ユネスコの遺産プログラムにおける政治問題化の事例分析と理論的側面における考察の両方の作業を行い、統合的な形で研究成果の一部を公開できたため。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、調査を進めながら執筆活動に従事する。とくに今年度は、遺産をめぐる東アジアの政治について、「存在不安」の理論的枠組みから研究を進める予定である。また、ユネスコの「世界の記憶」プログラムに関しての英語著書の執筆準備に入る。研究成果は適宜、国際共同研究における国際会議や学会において報告をすることで、この研究をさらに発展させるための知見を得る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したい図書の多くが本年度において紙媒体で発刊されず、また、英語論文の校正やデータ収集にかかる人件費が当初予定していたよりも多く必要とされなかったことが理由である。今後、余剰分は主に関連文献の購入にあてる。
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