国際貿易レジームの相違や各国の政治経済制度の相違を考慮しながら、各国の国内政治圧力の増大が貿易相手国の政治的支持関数に及ぼす影響について検討することを目的にして、本研究を実施してきた。本年度は最終年度であり、政治経済的に非対称な3国間の貿易交渉モデルを2レベルゲームの枠組みで構築し、このモデルを基礎に日本・米国・中国の3国間の貿易交渉について実証分析するために研究を進めた。このようなモデル構築と実証分析において、以下のような2点を中心に研究を進めた。 第1に、国際貿易交渉の理論的な検討については、従来の貿易交渉モデルを2レベルゲームの枠組みで政治経済的に非対称な3国間の貿易交渉モデルに拡張した。これまでに構築されている対称的な2国間の貿易交渉モデルは現実の貿易交渉を分析するには不十分である。したがって、このような従来のモデルを再構成すると共に、さらに非対称的な3国間の貿易交渉モデルへ拡張した。特に注意したのは、国内経済制度の非対称性と国内政治制度の非対称性である。 第2に、国際貿易交渉の実証的な検討については、日本・米国・中国の3国間の非対称な貿易交渉モデルを基礎に、米国の国内政治圧力に端を発する米国と中国との関税戦争が、当事国である米国や中国だけではなく日本のような関税戦争に参加しない第三国の政治的支持関数に及ぼす影響について検討した。日本の政治的支持関数への影響については、米国や中国が第三国である日本に対して設定する最適関税率を明示的に考慮した。米国や中国の日本に対する最適関税率は、貿易削減効果や貿易転換効果によって日本の輸出や輸入に影響を及ぼす。このような貿易効果は、企業利潤に影響し、さらに日本の政治的支持関数に影響することが分かった。
|