本研究の目的は、カイゼンが援助アプローチとして有効か、社会的インパクトに注目しながら次の 3 つの異なった視点から研究し、そのインパクトを明確化することである。その3つの視点とは、(1)日本の経済成長の過程にカイゼンの果たした役割の研究、特に格差縮小に果たした役割の検証、(2)被援助国であった日本の経験から途上国支援への制度づくりの教訓の抽出、(3)インパクト分析手法によるカイゼンの雇用などへの社会的インパクトの検証であった。 第1の点については様々な公文書を紐解くことにより次の3点を明らかにした。①アメリカの対日援助が冷戦構造の中で極めて戦略的であったこと、②日本側において援助の受け入れの中心的な役割を担ったのが政府ではなく経済同友会であったこと、③労使関係がこの援助の後、戦闘的なものから建設的なものに変化し「日本型労使関係」と呼ばれるものが出来上がっていったことである。 第2の点については援助の歴史を比較分析することにより、民間セクターの援助については、政府よりも民間が主導的や役割を果たす必要があること。政府はそれをうまく支えることが必要であることを明らかにした。 第3の点については、中米・カリブ8カ国における企業の実証研究の結果、カイゼンを現地企業にトレーニングした結果、経営陣と労働者(および労働者間)の協力関係の強化、生産性向上、労働環境の改善、賃金の向上、経営者のカイゼン研修に対する支払い意思額などに正のインパクトがあったことが明らかになった。 これらの研究結果を政策に反映するため、2019年度に行われた第7回TICAD(アフリカ開発会議)においてノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授を招いたセミナーを実施、2018年度には国際開発学会の学術誌で特集号を組み、同時に成果の発信のためのセミナーを国際開発学会とJICAの共催により実施するなどした。
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