本研究では、ロシアをはじめとするユーラシアの主要国ならびに日本を含めた関係諸国の原子力エネルギーの供給・開発に関する政策が、冷戦後のユーラシア国際秩序にいかなる影響を与えたのだろうか。このような問題意識を踏まえてコロナ禍の延長を含め、都合5年間の研究を実施した。 研究は、新型コロナウイルスによって現地調査が必ずしも充分に果たせなかったことのほか、研究代表者の異動による研究環境の変化によって、当初想定した形で帰結できなかったという反省がある。さらに、2022年2月にロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始し、それが今も継続中であることで、米欧諸国とロシアとの亀裂が決定的となり、この地域の国際秩序は根本的に変わってしまった。しかし、このような変容にもかかわらず、ロシアの原子力政策とりわけ国外に向けた発電所建設を含む技術移転については、一定の継続性が認められる。特にトルコに対しては、2023年4月に完成式典を行った南部アッユク発電所に続き、黒海沿岸のシノップでの新規原発4基の建設計画が進んでおり、ロシアの対外的な原子力政策の堅調ぶりを象徴している。 本研究で当初設定していた「冷戦後」という時期区分は、研究上有意なものではなかったかもしれない。しかし、ソ連解体後のロシアの対外政策を評価する一貫した変数として、原子力技術の移転は一貫して注目すべきであり、軍事用途を含めた原子力立国としてのロシアが存続するかぎり続くだろう。
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