研究課題/領域番号 |
17K03602
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
杉山 知子 愛知学院大学, 総合政策学部, 教授 (90349324)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 移行期正義 / ポスト移行期正義 / ラテンアメリカ / 民主主義 / 記憶 / グローバリゼーション / アルゼンチン / チリ |
研究実績の概要 |
グローバル化時代の趨勢として、戦争や内戦、権威主義体制下での人権侵害を経験した社会では、移行期正義及びポスト移行期正義として過去を忘れず記憶することが重視されてきた。平成29年度は、ドイツ連邦共和国ベルリン、ミュンヘン、ダッハウ、ニュルンベルク、ハンブルクなどにおける過去の戦争・人権侵害・ホロコーストを記録する慰霊碑・関連施設・旧強制収容所視察訪問及びラテンアメリカの事例との比較的視点を考慮した研究資料収集をおこなった。 ラテンアメリカ諸国については、日本ラテンアメリカ学会中部日本研究部会において研究発表をし、アルゼンチンにおける軍政期の人権侵害の記憶についての検討をした。民政移管後現在にいたるまで、アルゼンチンでは、軍政期の人権侵害をテーマとした映画が幾つか制作され、国際的にも高い評価を得てきた。そのようなアルゼンチン映画を幾つか紹介し、政治的暴力や犯罪、人権侵害がどの様に取り上げられ、アルゼンチンにおける民主主義の定着や政治・社会の変化とともに、それらをテーマとした映画の視点がどのように変化してきたのか(権威主義体制下での人権侵害の可視化、人権侵害被害者の象徴としての母親、孫・子供たちからの視点、軍政期を多面的・多層的・世代を超えてみる視点、軍政期の犠牲・痛みの継続)について考察した。 アルゼンチンは、過去の人権侵害についての記憶の可視化や社会での記憶の共有について前向きであったと思われる。しかし、近年になるまでアルゼンチン日系人強制失踪者の存在や日系失踪者家族会の活動は知られておらず、可視化されにくい人権侵害の記憶についての知見が得られた。 このほか、チリー日本交流120周年記念シンポジウムにおいて、過去の人権侵害の記憶に加え、震災を記憶する国際協力についての発表を行った。過去の記憶をめぐる議論として、日本と韓国、中国との歴史認識をめぐる諸問題についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、過去を記憶することについて、ラテンアメリカ諸国とヨーロッパ諸国とを比較する観点から、ドイツ連邦共和国ベルリン、ミュンヘン、ダッハウ、ニュルンベルク、ハンブルクなどにおける過去の戦争・人権侵害・ホロコーストを記録する慰霊碑・関連施設・旧強制収容所を視察した。ヨーロッパ諸国とラテンアメリカ諸国の比較について、民主主義や市民社会の成熟度、市民活動の在り方などの違いを踏まえた類似点・相違点の検討の必要性、ラテンアメリカの地域的特性、ラテンアメリカ地域のなかでもアルゼンチンやチリにおける過去の人権侵害の記憶をめぐる特徴や特殊性の考慮などの課題も見えてきた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ラテンアメリカ諸国(特にアルゼンチン、チリ)を中心的事例とし、ヨーロッパ諸国との比較やグローバルな趨勢を踏まえながら、移行期正義研究やポスト移行期正義研究、国際関係論の先行研究の検討及び過去の記憶形成と記憶の展開について考察する。過去の記憶形成は、人権侵害の起きた軍事政権期を中心とするが、軍事政権期以前の政治・社会状況がどのように記憶されてきたのかについても検討していきたい。国内外での学会において研究発表を行い、研究について他の研究者からのフィードバックを得ながら研究課題に取り組んでいきたい。
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