最終年度である令和4年度も、コロナ禍のため海外での史料収集は控えざるを得なかったが、前年度に着手したベルギーの事例について、本プロジェクトで得た史資料・知見をベースとして71年の国交樹立に至る過程を明らかにした論文を発表できた。オランダ、イタリア、オーストラリアについても史料・評伝・先行研究の収集に努め、入手できたものから読み進め、論文執筆を開始した。また前提となるアメリカとイギリスの対中政策および中国共産党の対外政策の変化についてまとめる作業も並行して行った。 研究期間全体を通じた成果として、従来知られていなかった各国の対中外交を明らかにできたことが挙げられる。また同盟政治研究として、西側陣営ナンバー2のイギリスがいかにナンバー1のアメリカに対応したのか、そしてミドルパワー諸国が英米の間、あるいは相互間でどのように、どの程度連携していたか(していなかったか)を比較検討した。具体的には、北欧ではノルウェーがイギリスに近く、中立国として距離を置くスウェーデン、両者を取り持つデンマークという構図が確認できた。西欧諸国ではベネルクス諸国はイギリス寄りであった一方、フランス・イタリアはアメリカ寄りであった。カナダとオーストラリアは英連邦諸国としてイギリスと緊密でありながら自律性へのこだわり、アメリカへの配慮も強かった。総じて、ミドルパワー諸国はイギリスの動向を重視し、またイギリスも頻繁に情報提供し働きかけており、イギリスが対中政策に関して国際社会のネットワークのハブに位置したことを明らかにできた。さらに、中国問題に関する同盟政治は、従来明らかにされてきた英米大国間のみならず、ミドルパワーも含む重層的なものであったことを実証できた。 研究を進める中で中国台湾の専門家、北欧やベルギー、カナダのアジア問題・中国政治研究者や国内の各国政治研究者の協力を得られたことも記しておきたい。
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