研究課題/領域番号 |
17K03611
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
久保田 徳仁 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 人文社会科学群, 准教授 (00545858)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 平和維持活動 / 犠牲者 / データベース / クーデタ / 計量分析 |
研究実績の概要 |
2年目にあたる本年度は、平和維持活動における犠牲者のデータベースを分析可能なレベルまで整備することを主眼に置いた。すでに犠牲者のデータベースそのものはほかの研究者らによって提供されており、さらに国連からも公式の犠牲者リストが公表されている。しかし、本研究の根幹の一つである害敵行為の発生メカニズムの究明のためには、より細分化されたデータが不可欠である。国連の発表する死亡者リストを様々なニュースソースを用いて、戦闘参加、車列に対する攻撃、基地等に対する攻撃、地雷等による被害、無差別攻撃、犯罪に巻き込まれること、同僚による攻撃、流れ弾の被弾、不明、に分類した。これにより攻撃する側の行動メカニズムと、平和維持活動の部隊の行動メカニズムの相互作用が明らかになると思われる。今年度は2003年から2017年までのデータを整備した。 分析の取り掛かりとして、①アメリカによるアフリカ諸国の軍訓練プログラム(ACRI、ACOTA)の効果、および、②平和維持活動のミッションレベルの司令官の効果を分析した。 傾向スコアマッチングと回帰分析を併用して分析した結果、①アメリカによるアフリカ諸国の軍訓練プログラムは車列への攻撃による死亡を増大させている(プログラムを受けると車列の警護任務などより危険な活動に参加することになることを意味する)、②それぞれのミッションにおいて司令官が自国から選出された年は自国兵の犠牲者の割合が増大する(特に一人当たりGDPが低い国の場合に顕著にみられる)、ということが判明した。 ①はアジア政治方法論学会(Asian Political Methodology Meeting)で、②は米国国際関係学会(International Studies Association)で発表した。なお、前年発表したクーデタの発生に関する研究も改訂の上、米国国際関係学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定は①平和維持活動の犠牲者発生のデータセット作成と要員提供国の反応、平和維持活動の要員提供とクーデタの発生・成功確率の研究の2つの柱で研究を進める予定となっていた。 ②に関しては予定より早く研究が進んでおり、平成29年度にすでに論文発表(『比較政治研究』誌、邦文、査読つき)をしている。しかし、その後研究発表をする中で分析対象時期が限られていることが指摘され、統計指標や分析モデルにおいても改善が可能であることが判明している。特にPKO要員として提供される兵士、将校が軍のどのような層から選出されているかを分析する必要が生じている。 ①に関しては平成29年度の予定だったデータベース完成が当年度(平成30年度)に持ち越され、やや遅れていたが、データベースを分析可能なレベルで完成させることができた。当年度後半には2つの独立した分析を行い、(予想とは異なるものの)ある程度意味のある分析ができ、英語で国際的に発信できたことは評価できると思われる。犠牲者発生メカニズムと部隊司令官の関係についての研究では、途上国の司令官は政治的パワーが弱く自国兵を犠牲にせざるを得ないという仮説(weak power hypothesis)で分析を行ったが、学会発表では隣国の利害当事国が司令官の地位を使って介入行為を行っている可能性(interested neighbor hypothesis)が指摘された。実証における両者の区分が課題となっている。 犠牲者敏感性に関してはほかの研究者も研究を進めており、すでに論文が発表されたものもある。本研究では犠牲者を細分化しているため発表された論文より深い研究が可能と思われるが、十分な差異化が図れるか現時点では不明であり、この分野を深めるかは実際の分析をしながら決める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる令和元年度は、これまで進めてきた研究をさらに進展させる一方、研究成果の発表、出版により重点を置くことにする。 具体的には、①引き続き犠牲者データベースの拡充を進める(2002年以前のデータを1990年代前半まで拡張する)、②犠牲者と司令官の関係については2つの仮説を実証的に峻別できるモデルの構築を考え、アネクドートの収集と計量分析まで進める、③方法論に関して傾向スコアマッチングの問題点が指摘されており、これを踏まえた新しい分析手法を習得、応用する、④犠牲者敏感性に関してはデータベースを用いて犠牲を引き起こす状況の違いが各国の反応の違いを生むことについて暫定的な分析を行う、⑤クーデタの分析については分析対象時期を広げ分析しなおすことをおこなう。⑥(⑤に関連して)PKO要員が国内でどのようなステータスを持っていたか、事前、事後の状況を研究する必要がある。⑥は残る1年では達成がやや困難であるため、次の研究プロジェクトにつながるよう下調査を進める程度になると思われる。 これら5つの分野で研究を進め、できたものから投稿を行い、できれば英文雑誌への掲載を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初発表を予定していたアメリカ政治学会(American Political Science Association)への発表プロポーザルが不採択であり、参加できなかったため渡航費及び論文の英文校正費用が大幅に余剰している。 今年度は国際学会への参加をより多くしつつ、英文での投稿を進めるため校正サービスを利用することに助成金を使用する予定である。
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