最終年度である2022年度の成果として、戦後外交史研究会との共催で公開シンポジウム「日本外交をどう捉えるか―戦後外交史研究の課題と展望―」を開催した。このシンポジウムでは5名の研究者をパネリストに迎え、戦後日本外交史研究のこれまでの歩みを振り返りつつ、テーマやアプローチといった観点から今後の研究の可能性と課題を再検討した。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は以下の二点である。 第一に、1980年代の日米関係における経済と安全保障との連関性を一次史料に基づき分析した。中曽根康弘政権とレーガン政権は新冷戦という国際情勢下において安全保障政策での協調を優先し、議会で高まる貿易摩擦問題が日米関係を揺るがすことないよう経済と安全保障のディカップリングを意図した。半導体協定などの経済交渉で日本が米国に譲歩的な対応をとった背景には、自由貿易体制の強化や西側全体の結束維持という安全保障も含めたグローバルな視点が影響していた。なお、冷戦終結期の経済と安全保障の連関の起源を確認するという観点から、1960年代の日米関係の諸相(ドル防衛問題、ベトナム戦争、「核密約」問題等)についても検討し、複数の研究成果を発表した。 第二に、1980年代の日米関係に関する記録の収集・作成を進めた。日本側の一次史料としては外務省文書に加えて、従来注目されてこなかった大蔵省・通産省・日本銀行の史料も収集し、分析を加えた。外交文書公開や公文書管理の現状と課題についてはいくつかの論考を発表した。また、1980年代に対米交渉を担った外務省OBに対するインタビューを実施し、オーラル・ヒストリーとして記録化した。なお、研究期間中に発生した新型コロナウイルスの影響により海外での史料調査を実施できず、米国側史料の収集については所期していた成果は得らえなかった。
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