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2019 年度 実施状況報告書

協調メカニズムの理論実証分析

研究課題

研究課題/領域番号 17K03617
研究機関東京大学

研究代表者

神取 道宏  東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (10242132)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワードゲーム理論 / くり返しゲーム / 協調
研究実績の概要

(1)協調が達成される新たなメカニズムとして、事前に準備した戦略を相手の出方を見ながら一定のデッドラインまでに改定できるようなクラスのゲームを revision games として定式化した研究の基本部分を完成させ、経済学分野でトップの学術誌 Econometrica に投稿してアクセプトされた。出版は2020年4月以降となる予定である(掲載月は未定)。
(2)利害が必ずしも一致しない情報の送り手と受けての間でどのていど協調が達成できるかを分析する「戦略的情報伝達」について、古典論文である、Craword and Sobel (1982) の主要定理の証明に誤りがあることを発見し、反例を上げるとともに正しい証明を与えた。これは、学部演習に所属する学生である河野悠希氏と共著であり、Econometrica に掲載された。
(3)「相手の行動を見間違えるとき」や、「共同作業の結果(成功か失敗か)を見間違えるとき」について、くり返しゲームにおける協調の研究を進めてきた。特に、より良い戦略が生き残り、成績の悪い戦略が淘汰される進化的なプロセスを研究する「協調の進化」について、シミュレーションを使って研究を行った。その結果、相手の戦略を見間違える時には、本研究課題によって明らかにされた均衡戦略である FnB (n回続けて悪いシグナルを見たら協調に戻る)を、裏切りの初期状態から開始する戦略が進化のプロセスによって選択されるという新たな知見を得た。
(4)個人参加型の労働組合であるコミュニティ・ユニオンは、世代重複型くりかえしゲームの実例であり、そこにおける協調の実態調査を継続して行った。個人属性に関するデータを組み込んで以前の推定結果を改善し、本課題の初期に見出されていた仮説(理論分析で知られていた信念不問均衡と同じ構造を持つ均衡戦略に人々が従っている)が指示されるという結果を得た。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

経済学理論、ひいては経済学全体でのトップジャーナルである Econometrica 誌に、二つの論文がアクセプトされたのは非常に大きな成果である。とくに、学部学生の河野氏との共著論文は、東京大学総長賞大賞の授賞対象となった。
また、本研究プロジェクトの成果は国際学会の招待講演として発表された。私的不完全観測の下での協調の進化に関する研究は、国際ゲーム理論学会の30周年記念コンファレンスの招待講演として発表された。また、同研究は、理化学研究所が主催する、スパコンを使った応用研究のための学際的コンファレンスにおいて、やはり招待講演として発表された。
これと並んで、コミュニティ・ユニオンにおける協調の理論・実証研究は、ネットワーク科学者の国際コンファレンスである NetSci-X においてやはり招待講演として発表された。同研究は、「助け合いのネットワーク」が時間とともにどう形成されたかを、詳細なデータと理論分析で示すものであることから、ネットワーク科学の観点からも興味ある研究という評価を得、またネットワーク科学の観点から今後どのように研究を進展させたらよいかという点について、きわめて貴重な示唆を受けた。
本研究が経済学という狭い枠組みにとどまらず、計算機科学やネットワーク科学などの学際的・分野横断的・文理融合型の研究として評価されたことは、大きな成果であると言える。
また、「相手の行動を見間違える」可能性があるような場合の協調行動の進化について、「裏切りから出発し、十分な回数相手の裏切りを見たら協調にもどる」という戦略が均衡となり、しかも進化のプロセスで生き残り社会に広がって行くということは、これまで知られていなかった重要な発見である。この研究には、計算機科学者と進化生物学者が共同研究者として参加しており、分野横断的・国際的な研究を進展させた点で、特筆に値する。

今後の研究の推進方策

戦略の改訂を通じた協調の可能性に関する研究については、「各人が戦略を改訂する機会がばらばらにやってくる」ケースが多くの応用を持つという意味で重要である。将来の研究ではこの場合の分析が強く求められる。まずその一歩として、利得関数が additively separable という形状をしているケースについて、プレイヤー間で戦略改訂の頻度に違いがある場合の分析が、これまで得られた結果の自然な拡張となるため、有望な研究課題と考えられる。また、応用例についてさらなる研究が期待できる。
コミュニティユニオンの研究では、個人属性の効果を含め、これまで得られた推定結果をまとめて論文にして、投稿することを目指す。さらに、ネットワーク形成のメカニズムの解明という観点から、ネットワーク科学者との共同研究に発展させることも考えられる。これは上述のネットワーク学会での発表時のディスカッションから得られた展望である。
また、私的不完全観測の下での協調に関する研究は、そこでえられたシンプルな均衡について論文をまとめ、また動学的な進化プロセスのシミュレーション研究を別の研究論文としてまとめ、投稿することを目指す。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] University of California, Berkeley/Harvard University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of California, Berkeley/Harvard University
  • [国際共同研究] Max Planck Institute(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Max Planck Institute
  • [雑誌論文] Revision Games2020

    • 著者名/発表者名
      Kamada, Y. and M. Kandori
    • 雑誌名

      Econometrica

      巻: - ページ: -

    • DOI

      -

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Corrigendum to Crawford and Sobel (1982) “Strategic Information Transmission”2019

    • 著者名/発表者名
      Kono, H and M. Kandori
    • 雑誌名

      Econometrica

      巻: online corrigendum ページ: -

    • DOI

      10_3982/ECTA17617

    • 査読あり
  • [学会発表] Cooperation and Dynamic Network Formation in a Labor Union: A Case Study2020

    • 著者名/発表者名
      M. Kandori
    • 学会等名
      NetSci-X Workshop on Economics & Financial Networks, 早稲田大学
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Misperception and the Evolution of Cooperation2019

    • 著者名/発表者名
      M. Kandori
    • 学会等名
      The 30th International Conference on Game Theory, Stony Brook University, アメリカ
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Misperception and the Evolution of Cooperation2019

    • 著者名/発表者名
      M. Kandori
    • 学会等名
      The 5th Workshop on Self-Organization and Robustness of Evolving Many-Body Systems,理化学研究所 計算科学研究センター
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 個人ホームページ

    • URL

      https://sites.google.com/view/michihiro-kandori

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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