研究期間の前半で、実際の経済で観察されるような企業(経営者)と投資家の間によくみられるプリンシパル・エージェント問題を組み込んだ上で、負債の借り換えリスクと企業の支払い能力との間に内生的な相互作用が生じるような状況を想定した。そして、そのようなプリンシパル・エージェンシー問題が企業の負債期間構成、倒産可能性、投資水準などにどのような影響を与えるかを明らかにするようなモデルを作って、定性的な研究を進めた。その後、数値計算による数量分析的研究を推し進めて、(i)企業の負債期間構成の問題、および、(ii) 企業の短期流動性に関する不確実性の程度と長期支払い能力に関する不確実性の程度の変化という二つの不確実性のパラメーターに関する比較動学問題を分析した。また現実的なパラメーターの下での数値計算分析も行い、予想される結果が得られた。 一方、定常的な負債期間構成の仮定をはずして、期首時点で事前に決定した負債期間構成と負債の額面価値に企業がその後もコミットメントするという仮定を緩めるとどうなるのかという問題も分析した。とくに、キャッシュフローの動学方程式を確率的にして選択できる負債期間構成を2種類より多くするという形で He and Milbradt (2016) モデルの拡張を行った。しかし、これらの拡張では定性的な結果が得られず、数値計算を行っても安定的な結果が得られなかった。後者の二つのモデルの拡張に関する問題は、今個の研究課題としたい。
|