| 研究課題/領域番号 |
17K03622
|
|---|
| 研究機関 | 京都大学 |
|---|
研究代表者 |
若井 克俊 京都大学, 経済学研究科, 教授 (80455708)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
| キーワード | 経済理論 / 意思決定論 / 資産価格理論 / 行動ファイナンス |
|---|
| 研究実績の概要 |
本研究は、「曖昧性回避」という選好をとらえる効用関数“A Smooth Model of Decision Making under Ambiguity”（Klibanoff et al., Econometrica,
(2005））に基づく資産価格理論を発展させることを目的とする。特に、実証研究で多用される「リスク回避」に基づく多因子モデルを「曖昧性回避」に基づく因子を含むモデルに拡張し、データとの整合性の検証を目指す。
令和3年度は、平成29年度に導出した曖昧性因子を含む多因子モデルを精緻化し、得られた知見を投稿すべく準備を進めた。その際、データを用いて推計した曖昧性因子が理論の示唆する構造から乖離する傾向があるため、曖昧性因子の特定方法と推計方法について再考した。
具体的には、Klibanoff型効用関数においては意思決定者が複数の「リスクシナリオ」を想定し、それらの実現性を主観的に評価することで曖昧性を記述している。本研究では、効用関数を線形近似し、複数の「リスクシナリオ」に対する曖昧性を回避する行動を曖昧性因子により捉えている。一方、モデルの有効性を示すためにはデータを用いた推計方法を提示する必要があるが、研究代表者が行った先行研究（科研C:26380235）においてはモデルの定式化と整合的な実証結果が得られなかった。本研究成果を投稿するに向けてその原因を検討した結果、モデルでは一体的に導出している期待収益率を先行研究では各「リスクシナリオ」ごとに独立したものとして推計していることが原因であると推測するに至った。この違いを調整するために、モデルの含意や解釈に関する分析に変更を加える必要性が生じたが、新型コロナウィルス感染症拡大に伴いオンライン講義等の対応に追われ、かつ、理事補としての職務も加わった結果、研究時間の確保が困難になり、投稿まで研究が進まなかった。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
（１）曖昧性回避の影響を加味した多因子モデルの導出に関しては、予定通り進行している。
（２）曖昧性回避の影響を加味した多因子モデルと資産収益率データとの整合性の検証に関しては、利用したデータから示唆される曖昧性の特性と検証に用いた理論モデルが示唆する特性とが一致していない。その原因についてはおおよそ推測できたが、残された研究期間内に詳細な実証研究を検討するのは困難であると判断する。
（３）2019年度と2020年度において、所属機関の副研究科長や点検評価委員長等を担当、また、2020年10月以降は、大学本部の理事補を兼任している。さらに、2020年度初頭から新型コロナウィルス感染症拡大への対応等に終始し、組織運営業務やオンライン講義の準備にほとんどの時間を費やさざるを得ず、予定していた研究を行うことが困難であった。
|
| 今後の研究の推進方策 |
最終年度であること、新型コロナウィルス感染症による影響が予測できないこと、ならびに、引き続き大学本部の理事補を務めることなどを踏まえると、現在までの研究から得られている理論的知見の出版に注力しつつ、研究途上の理論分析を可能な限り進展させたい。具体的には、
（１）曖昧性回避の影響を加味した多因子モデルを出版可能なレベルに単純化・精緻化し、学術誌へ投稿する。
（２）曖昧性回避の影響を加味した多因子モデルを多期間モデルに応用し、モーメンタム効果等、動学的な事象との関連性を考察する。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由： 本研究課題に関連する国内・海外出張等は令和3年度に集中的に行う予定であったが、年度当初からの新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、実施が困難になった。また、新型コロナウィルス感染症拡大に伴うオンライン講義の準備や大学本部理事補としての組織運営業務等に多大な時間を費やすことになり、予定していた研究活動が大幅に制約された。これに伴い、令和3年度に購入を予定していた高性能ワークステーションコンピュータを令和4年度に購入することとした。
使用計画： 参考図書・資料の購入、コンピューターの購入、論文の英文校正等に加え、可能な限り、研究打ち合わせ・学会参加・研究成果発表等のための国内・海外出張にも使用する予定である。
|
