研究実績の概要 |
まず, Oishi, Nakayama, Hokari, and Funaki (2016, J. Math Econ)で提唱された双対アプローチを一般化して, 行列の1次変換に基づく双対アプローチを分析した. 提携形ゲームを行列の縦ベクトルで表現すると, あるゲームの双対ゲームは元のゲームの1次変換と考えることができる. プレイヤーの人数がn人のとき (2n-1)×(2n-1)の行列Mを用いて, 1次変換w=Mv(v, wは縦ベクトルで表現された提携形ゲーム)を考える. このwを「vのM変換」と呼ぶ. Mの逆行列が存在し, 全体提携Nの提携値についてw(N)=v(N)であれば, 原理的に解のM変換を定義できる. ある解をM変換したものが元の解に一致するとき, その解は自己双対解と定義する. 現在進展中のHokari, Kakihara, Sunada, and Oishi (mimeo)では, 各提携を組むメンバーだけに依存してMの成分が決まるとき, シャープレイ値が自己反双対解となるようなM変換を1つ発見した. 次に, 双対・反双対アプローチを経済問題の分配ルールの規範的分析に応用する試みがOishi(2018, Meisei Univ. DP)によって行われた. 論文では, 飛行場の費用分担問題と談合のメンバー間の利益分配問題の2つの経済問題を取り上げて, 両問題のシャープレイ値の公理間の関係, および両問題の仁の公理間の関係を(反)双対アプローチを通じて考察した. 最後に, 本研究活動の一環として、慶應義塾大学にてゲーム理論ワークショップを開催した. 国内の協力ゲーム理論・非協力ゲーム理論の研究者たちが自身の最新研究を報告し, 参加者間で活発な議論を行うことで、当該研究課題の遂行にあたって有益な知見・情報を収集することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標であるM変換を通じた(反)双対アプローチの一般化については, 協力ゲームの重要な解概念であるシャープレイ値のM変換の分析に焦点を当てた Hokari, Kakihara, Sunada, and Oishi (mimeo)の成果にあるように, おおむね順調に進行している. また, 平成30年度の目標の1つである, 経済問題の分配ルールの規範的分析に一般化された(反)双対アプローチを応用するための準備を, 平成29年度の研究期間中に行った. 具体的には, Oishi(2018, Meisei Univ. DP)において, 既存の(反)双対アプローチが経済問題の分配ルールの規範的分析にどの程度応用できるのかを調べた. 例えば, 既存の反双対アプローチを応用することで, 談合問題の仁ルールの公理化は, Hwang and Yeh (2012, Soc Choice Welfare)に示された飛行場問題の仁ルールの公理化と自己反双対になるにも関わらず, 談合問題の整合性公理は飛行場問題の整合性公理と異なる定式化になることが明らかにされた. この定式化により, 談合問題の整合性公理は, 当該の談合問題の文脈で自然な解釈を与えることができる. この意味で反双対アプローチは経済問題の分配ルールの公理的研究にも有益であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果を発展させる. 具体的にはまず, Hokari, Kakihara, Sunada, and Oishi (mimeo)で得られたM変換以外で, シャープレイ値が自己双対解になるようなM変換があるかどうかや, シャープレイ値の「公理のM変換」についても調べる必要がある. さらに, シャープレイ値以外の協力ゲームの解について, 同じ分析手法が使えるかどうかも調べる必要がある. このような指針に従って, 協力ゲーム理論の(反)双対アプローチの一般化の基礎を着実に作成していく. 次に, Oishi(2018, Meisei Univ. DP)で扱った経済問題以外の経済問題の分配ルールの公理で, 自己(反)双対公理にならないような公理を調べる必要がある. 例えば, 非分割財の割り当て問題(一般化された割り当て市場問題)におけるコアはToda (2005, Games Econ Behav)によって公理化されているが, そこで用いられている整合性公理の反双対公理は元の整合性公理と異なる可能性がある. このような指針に従って, 協力ゲーム理論の(反)双対アプローチの経済学への応用を着実に推進していく.
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