本研究は、大きく分けて二つのテーマに分けられる。一つ目は、インフレの経済成長促進効果の分析である。価格の改定に費用がかかる場合、インフレは収益を抑制し、研究開発能力の高い企業に資源がより集中することにつながる。その結果、質の高い研究開発プロジェクトが多く実行され、経済成長にプラスの効果をもたらす。このメカニズムにより、最適なインフレ率は若干のプラスであることを示した。日本の企業データに照らすと、高インフレ下では大企業は小企業よりも研究開発への投資が多く、成長速度も速いことが観察され、これは理論モデルと整合的である。この研究をまとめた論文は、International Economic Reviewに掲載された。
二つ目のテーマは、パフォーマンスの悪い企業の退出の遅れをもたらす非効率性の分析である。日本企業の退出のパターンは、実際の退出の数年前から売上が低下する「死の影」と呼ばれる緩慢な退出プロセスを示している。そこで、死の影を発生とそのマクロ経済とのインタラクションを説明するために、企業の研究開発投資と撤退の意思決定を組み込んだ内生的成長モデルを開発した。このモデルに企業補助金を導入し、補助金等の政策が死の影を引き延ばすこと、それによって非効率性が増大することを示した。産業の新陳代謝を弱めるこうした非効率性は、経済成長の鈍化につながる。ただし、日本の企業データにカリブレートしたモデルのシミュレーションでは、経済成長率への死の影の影響はそれほど大きくないことも見出されている。この研究をまとめた論文は、現在国際学術誌に投稿中である。
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