研究実績の概要 |
政策当局者の多くは、人口減少・知識創造社会において、より多くの人々に高等教育へのアクセスを促し、高等教育人口を量的に拡大し、研究開発の基盤を形成することが、その経済の持続的な経済成長にとって重要だと考えている。実際にOECDの平均では、低授業料の国公立大学、奨学金などを通じ、高等教育費の70%程度が公的な財源により賄われている。しかし一方で、経済成長の実証研究の多くは高等教育の量的拡大と経済成長率の間に明確な関係が見られないという結果を導いており、政策当局者の認識と実証研究結果には差異が生じている。 本研究ではこうした問題意識に基づいて、プロダクト・イノベーション(製品開発イノベーション)とプロセス・イノベーション(生産過程イノベーション)の両方を考慮した2期間世代重複、R&D型経済成長モデルを構築し、高等教育を受けた熟練労働者の量的拡大をもたらすような高等教育補助政策が経済成長率に及ぼす影響について理論的な分析を行った。その結果(1)市場構造(企業数)が調整過程にある短期では、高等教育補助政策が経済成長率に及ぼす影響はパラメータの値次第で、正、負どちらの場合もあり得ること、(2) 市場構造(企業数)が完全に調整される長期では、高等教育補助政策は企業数を増やすものの、企業あたり市場規模の縮小を通じ、経済成長率を低下させること、を明らかにした。こうした経済成長に関する理論的含意は高等教育の量的拡大と経済成長率の間に明確な関係が見られないという実証研究と部分的に整合的である。これらの理論的成果は "Higher Education Subsidy Policy and R&D-based Growth" (School of Economics, Kwansei Gakuin University, Discussion Paper Series)としてまとめられた。。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究全体の進行が遅れ、論文執筆作業が進まなかったため、研究報告のための旅費や英文校正費の支出予定分の一部を次年度に繰り越すこととなった。 (使用計画) 翌年度に持ち越すことになった45,623円については旅費や英文校正費などに割り当てる。また翌年度分として請求した直接経費700,000円分については当初の計画に沿って、文房具や統計分析ソフトウエアなどの物品費に300,000円分を、研究報告のための国内旅費や学会参加のための外国旅費などの旅費に300,000円分を、研究補助の人件費・謝金に50,000円分を、英語チェックの査読料などのその他の項目に50,000円分をそれぞれ割り当てる予定である。
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