研究課題/領域番号 |
17K03638
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
田畑 顕 関西学院大学, 経済学部, 教授 (20362634)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高等教育 / 研究開発投資 / 経済成長 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続いて、プロダクト・イノベーション(製品開発イノベーション)とプロセス・イノベーション(生産過程イノベーション)の両方を考慮した2期間世代重複、R&D型経済成長モデルを用いて、高等教育を受けた熟練労働者の量的拡大をもたらすような高等教育補助政策が経済成長率に及ぼす影響について理論的な分析を行った。昨年度の段階では主に解析的な分析を通じて、(1)市場構造(企業数)が調整過程にある短期では、高等教育補助政策が経済成長率に及ぼす影響は正、負どちらの場合もあり得ること、(2) 市場構造(企業数)が完全に調整される長期では、高等教育補助政策は企業数を増やすものの、企業あたりの市場規模の縮小を通じ、経済成長率を低下させる、という点を明らかにしていた。 本年度はレフェリーからの提案を踏まえ、より現実的な高等教育投資の設定を持つような理論モデルに拡張し、以前と同様の理論的帰結が得られることを確認した。加えて数値解析分析を拡充し、現実的なパラメータの値のもとで、高等教育補助政策が経済成長率に及ぼす数量的効果について、詳細な検討を加えた。これらの成果は昨年度発行したDiscussion Paperの改訂版"Higher Education Subsidy Policy and R&D-based Growth" (School of Economics, Kwansei Gakuin University, Discussion Paper Series 178-2.)としてまとめられた。また成果の一部は学術専門雑誌Macroeconomic Dynamicsへ掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究推進方策では、(1).人口の高齢化が企業の技術選択や個人の起業選択を通じ、長期的な経済成長率に及ぼす影響を分析する経済成長モデルを構築すること、(2). さらには構築された理論モデルを拡張する形で、高齢者の労働参加率の向上が経済成長率に与える影響について分析すること、を本年度中達成すべき課題として挙げていた。当初計画では、これらの分析もプロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションの両方を考慮したR&D型経済成長モデルの枠組みで分析を展開する予定であった。しかし理論モデルの解析的な取り扱いが難しいこともあり、高齢化や少子化の効果について、興味深くかつ明確な理論的含意を導くことはできなかった。その結果高齢者の労働参加の促進に関する分析を進めることも難しかった。また高等教育補助政策に関する論文の改訂作業に時間がかかったことも、分析が進まなかった一つの要因である。
しかし一方で、世代重複R&D型経済成長モデルの枠組みを利用することで、知的財産権保護政策と経済成長の関係や、知的財産権保護政策と公共資本投資政策の関係に関しては、興味深くかつ明確な理論的な含意を導くことができたので、これらの成果について現在論文としてまとめる作業を進めている。
以上、知的財産権保護政策と経済成長の関係や、知的財産権保護政策と公共資本投資政策の関係に関しては、興味深い理論的含意を導くことに成功した。その点についてはある程度自分でも評価できると考えており、論文化する作業を鋭意進めていく予定である。しかし当初計画した人口の高齢化が企業の技術選択を通じ経済成長に及ぼす影響を分析する理論モデルの構築には成功したとはいえず、さらなる検討の余地が残る。その意味では、現在までの達成度は「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
知的財産権保護政策と経済成長の関係や、知的財産権保護政策と公共資本投資政策の関係に関して、興味深い理論的含意を導くことに成功しており、本年度はまずはこれらのテーマの論文化に取り組んでいく予定である。また、当初計画に沿って人口の高齢化が企業の技術選択を通じ、長期的な経済成長率に及ぼす影響について分析する経済成長モデルの構築についても引き続き取り組んで行きたいと考えている。さらにはその構築された経済成長モデルを拡張する形で、当初計画において3年目の課題として取り上げていた、(1). 家計の出生行動を明示的に考慮した上で、環境政策が長期的な環境水準や経済成長率に及ぼす影響について分析する経済成長モデルの構築、(2). (1)の理論研究に基づき、人口政策と環境政策の最適な組み合わせのあり方についての分析、といった作業にも取り組んでいく予定である。
こうした応用分析においては、解析的なアプローチでは限界があり、主に数値計算の手法に頼ることとなる。そのためシミュレーションプログラムの作成に多くの時間を割く予定である。またこうした理論分析に基づく実証研究のために必要なデータベースの作成などにも取り組む予定である。以上、本年度もできうる範囲で、当初の研究計画に沿って研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究全体の進行が遅れ、論文執筆作業が進まなかったため、研究報告のための旅費や英文校正費の支出予定分の一部を次年度に繰り越すこととなった。翌年度に持ち越すことになった75,506円については旅費や英文校正費などに割り当てる。
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