本研究の考察対象である河上肇と李大釗、陳啓修の思想的交流について、『吉野作造研究』第15号(2019年4月)に「河上肇と中国知識人」と題した論文を発表した。本論文では、李大釗や陳啓修が河上肇の著作からマルクス経済学を学びつつも、河上が強調した「科学的真理」と「宗教的真理」の共存という点については、まったく共感をもたなかった点を明らかにした。 2019年11月には、東洋文庫でおこなわれた五四運動百年記念シンポジウムで、「五四運動と日本の黎明会」と題した報告をおこなった。この報告では、本研究の主題である大正デモクラットと五四運動を主導した中国知識人との思想的交流について具体的に検討をおこなった。 さらに、2020年2月に慶應義塾大学出版会より学術書『大正デモクラットの精神史 ―東アジアにおける「知識人」の誕生』を刊行した。この著書の中で、本研究の考察対象である福田徳三、河上肇、李大釗、陳啓修を、第2章「福田徳三と中国知識人」と第3章「河上肇と中国知識人」でそれぞれとりあげた。福田徳三と河上肇は、日本の二大経済学者として、中国でも広く名が知られていた。2人が著した論文、著作なども数多く翻訳されている。さくに、李大釗と陳啓修は、福田・河上の経済学説を翻訳・紹介した中心的な担い手であった。その一方で、李大釗と陳啓修の経済思想には、福田・河上と大きく異なる面も存在した。本著作では、これまで看過されてきた日中経済思想にみられる共通性と異質性を具体的に考察・分析している。
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