スウェーデンの経済学説を中心とした北欧諸国の社会科学理論の研究として、スウェーデン経済学史の通史とスウェーデンの社会形成との相互関係を論じた単著『社会をつくった経済学者たち――スウェーデン・モデルの構想から展開へ』を名古屋大学出版会より2022年9月に刊行できたことが最大の研究成果となった。とりわけ日本語で書かれた研究書において、スウェーデン経済学史の通史が明らかにされたことはなく、世界でも数少ない存在であるが、幸いにもおおむね好評を得て、多くの書評に恵まれたほか、第11回名古屋大学水田賞、第8回進化経済学会学会賞を受賞した。 スウェーデンにおける経済学史の歴史は古く、バルト海帝国と呼ばれるほど領土を拡張していたスウェーデンでは金融の発達や産業振興が早くから見られ、その背景において世界初の中央銀行、大学経済学教授が誕生している。1880年代以降、ダヴィッドソン、ヴィクセル、カッセル、ヘクシャーら「第1世代」の経済学者群像が現れ、公共論議に積極的に参画し始め、1920年代前半まで世論に影響力をもった。彼らの弟子にあたるリンダール、ミュルダール、オリーン、ハマーショルドら「第2世代」(ストックホルム学派)は、1920年代後半以降、とりわけ世界恐慌が深刻化した1930年代前半に「第1世代」と対抗する介入主義的志向を強く示したが、公共論議への参画という伝統は継承した。社会民主主義と自由主義の対抗によって、スウェーデン・モデルは「中道」を歩んだが、そこに「第1世代」・「第2世代」の言論動向が作用し続けたことを明らかにした。
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