研究課題/領域番号 |
17K03646
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
黒木 龍三 立教大学, 経済学部, 教授 (70186534)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | チュルゴ / 資本理論 / 主観価値説 / 交換理論 / 貨幣理論 / 尊重価値 |
研究実績の概要 |
「18世紀フランス政治経済学の理論的解明・カンティロン、ケネー、チュルゴを中心に」との課題での研究2年目において、成果は着々と挙げつつある。第1に、2017年度、18世紀フランスの政治経済学、について開催した国際会議の成果を、The Foundations of Political Economy and Social Reform -- economy and society in eighteenth century France -- の題で、イギリスRoutledge から出版できた。はしがき、以外の私の担当は、第6章の Turgot: a Successor to Quesnay and a Forerunner of Smith である。そこで、チユルゴの『考察』を中心に、彼の理論の全体像を明らかにし、とりわけその価値理論との関係で、彼の独特な地代理論へのアプローチと土地価格決定についての言及を主要な問題として取り上げた。基本は、2部門分析のうち、農業に収穫逓減を仮定していること、したがって、リカードウよりもかなり早く、差額地代説の理論化に成功していると評価した。また、チュルゴに特有な主観価値説についても、限界効用逓減を前提に、複数の個人の交換が主観価値と市場価値との相違から起こることを既に明示し、その卓見はエッジワースのボックスダイアグラムに先駆けること100年である点を強調した。 1) 「チュルゴの「価値と貨幣」」、経済論叢(京都大学)、第193巻第1号 2) 「資本主義の起源ー経済理論と歴史認識ー」立教経済学論叢、第86号 3) ヨーロッパ経済学史学会 大会での報告(2018年6月、スペイン・マドリッド)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定に照らして、概ね順調である。2年続けて、ヨーロッパ経済学史学会大会で報告できたことは、大きな成果(2017年のベルギー・アントワープと2018年のスペイン・マドリッド)であるし、なによりも、チュルゴ研究を、18世紀のフランス政治経済学の1つの到達点として、論文集の中で位置づけ,ロンドンのRoutledgeから出版できたことは大きい。 差額地代の走りとしての地代論と土地価格の形成理論の発掘から、期せずして到達したのが、チュルゴの「主観価値説」で、なぜ彼が効用理論にこだわったのか、は、供給量によって価値が変化する問題に気がついていた点に求められる。したがって、価格との対応で、需要の大きさが決まらなければ、価格は決定されない訳で、おそらくこの点が、チュルゴが主観価値説にこだわり,市場での需給調整を重視した理由と思われる。また、貨幣は「言語」である、というような、従来、等閑視されてきたチュルゴに独特の貨幣観や、主観価値と市場価値との相違によって説明され、エッジワースの先駆けとも考えられる、チュルゴの交換理論を検討、その成果は、京大の「経済論叢」で明らかにされた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、最終年ということもあり、18世紀フランス経済学者たちの足跡と、彼らが、古典派経済学やマルクスに与えた影響を明らかにする。 研究をまとめるにあたって、フランスの経済学者のジルベール・ファッカレロ教授、オーストリアのクリスチャン・ゲルケ教授らを日本に招聘し、以上の論題で国際会議の開催を企画している。 私の最後に残し、また現在取り組んでいる課題は、利子率と利潤率の決定関係の問題であり、5月下旬にフランスで開催されるESHETの大会で報告を予定している。内容としては、チユルゴの理論での、利子率が利潤率の水準を決定づけるのであって、決してその逆ではない、との主張は、リカードウやマルクスの理解とは真逆である点を強調する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度へ一部持ちこした理由は、次年度が最終年度であり、科研費の取得論題に沿った国際会議を準備し、その費用に少しでも充てたいためである。
|