本研究の目的は,コモンズの経済思想を内在的に再構成し,19世紀末以降のアメリカ経済思想における人間の行動モデルの描き方に対するコモンズ的な意思主義の特質,および,法もしくはルール発見を含むコモンズ的な制度進化の意味を明確にすることにある. 令和元年度においては,当時の主流派経済学と対照的なコモンズの意思主義や制度進化の内実,および,制度学派の中でのコモンズの位置づけを明確にするため,ミッチェルの人間の行動モデルについても考察を進めた.コモンズについては,法学と経済学を両睨みしながら第5の当事者による裁定を通してより望ましい価格や条件を能動的に選び取るという人間の「活動している意思」を軸にした取引モデルの内実を明らかにした.またミッチェルは,人間の能動性による社会制度の進化とそれに伴って成立する規範が思考や行動を画一化していくという意味での人間の合理性をモデル化していたことを明確にできた.制度学派の人間の行動モデルとは,当時の主流派経済学とは異なり,社会的制度の累積的な発展の中で人間を理解する見方そのものも変化していくという事実から,人間の能動的な側面を取り入れることに特徴があった. 研究期間全体を通じて,取引当事者に与えられた法的資格を1890年代以降のコモン・ローの変化を捉える判例研究の蓄積に支えられた法的概念を軸とする制度進化として説明し,当時の主流派経済学において所与とみなされた人間の意思的な働き,すなわち欲望充足パターンを能動的に選択する「活動している意思」を備えた経済主体を理論の枠組みに取り入れるという制度学派におけるコモンズの経済思想の極めてユニークな発想が明らかにできた. これらの研究成果は,令和2年3月末の進化経済学会にて報告される予定であったが,新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期・取りやめとなった.目下,査読付きの学会誌に投稿するための論文をまとめている.
|