本研究の目的は、レジーム・スイッチングモデルにおける統計的推測理論の発展である。レジーム・スイッチングモデルは、構造変化・非線形性・強従属性などの時系列の特徴をよく記述することができるため、経済学・ファイナンスの分野において非常に幅広く利用されている。
実際の応用においてレジーム・スイッチングモデルを推定する際には、レジームの数をデータから決定することが特に重要となる。しかしながら、レジーム・スイッチングモデルの尤度関数は特殊な構造を持つため、レジームの数に関する統計的推測が非常に困難であることが知られている。特に、各レジームにおける時系列の分布が正規分布に従う場合は、フィッシャー情報行列のランクがパラメーターの値に依存して変化するため、対数尤度関数の漸近分析は著しく困難であった。その結果、レジームの数に関する統計的推測の実用的な手法は未だに確立されていなかった。
本研究は、フィッシャー情報行列のランクがパラメーターの値によって変化する場合にも適用可能な対数尤度関数の近似手法を確立し、レジーム・スイッチングモデルの対数尤度関数の漸近分析手法を確立した。この結果を用いて、レジームの数をデータから決定する実用的な手法として尤度比検定を提唱し、尤度比検定統計量の漸近分布を導出した。さらに、コンピューター・シミュレーションを行い、現実的なサンプルサイズの下で、尤度比検定が実用性を持つことを確認した。また、現実のデータを用いて、尤度比検定がAkaike Information CriterionやBayes Information Criterionでは明らかにすることのできない知見を提供できることを確認した。研究成果は、ワーキング・ペーパーとして刊行された。
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