第1に特記しておきたい研究実績は、佐藤隆広「在印日本企業の概況と労働問題:独特の難しさを抱える雇用問題」(『図解インド経済大全』白桃書房、2021年所収)である。この論考では、インドにおける労働問題を会社内部のカースト別労働編成が抱える諸問題を解説した。本研究は、もともと、インドにおける労働市場と政府介入の動態的な関係を研究の重要な目的としていたが、この論考で会社内部の労働配分問題の重要性が明らかになった。すなわち、「市場」と「政府」に加えて会社という「組織」が現代のインドにおける労働問題の解明にとっては不可欠な要素ということである。 第2は、Takahiro Sato "Labor Allocation of the Indian Automobile Industry: With Special Reference to the Transferability of Japanese Management Practices"という研究報告を国際会議で行ったことである。これは、わたしとわたしの研究グループが実施した30社のインドにおける自動車製造企業の現地調査を利用して、調査企業がどのような人的資源管理を行っているのかを定性的に分析したものである。インド労働問題を「組織」に注目して行った初めての本格的な定性的な分析である。 第3に、内部労働市場論をはじめとする「組織」に着目している労働研究を渉猟し、インド労働市場の全体像を解明できる理論的枠組みに関する研究を行った。 このほか、新型コロナ禍に直面しているインド進出日系企業にアンケート調査を実施し、多くの企業が人件費の削減を強いられている状況を明らかにした。この研究は佐藤隆広「新型コロナ禍のなかのインド進出日系企業」(『経済経営研究(年報)』、2021年)として公刊した。
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