本研究では、1980年から2017年までの四半期データを用いて、日本の貨幣需要関数を分析している。貨幣需要関数として、log-log form(貨幣量の対数は、名目金利の対数の線形関数となる)とsemi-log form(貨幣量の対数は、名目金利の水準の線形関数である)があるが、どちらが正しい定式化であるかについて、いまだコンセンサスは得られていない。我々は、これらの定式化の違いは低金利で顕著になることに注目して、低金利を長期間経験してきた日本のデータを分析することで、どちらの定式化が正しいかを明らかにしている。データ分析の結果、日本においてlog-log formが正しい定式化であることを確認した。具体的には、Engle and Granger (1987)の共和分検定では、どちらの定式化も支持されなかったが、構造変化を考慮したGregory and Hansen (1996)の共和分検定を行うことで、log-log formでのみ、共和分関係がないとした帰無仮説を棄却している。また、Kejriwal and Perron (2010)検定を行うことで、log-log formでのみ共和分ベクトルに構造変化が生じていたことを確認した。構造変化日は、2005年第3四半期と推定されている。最後に、インフレの厚生分析をしたところ、日本においてはインフレのコストが小さいことを確認している。2%のインフレはGDPの0.04%を失うことに等しいという結果を得ている。この結果は、Ireland (2009)と類似の値であるが、Lucas (2000)の推定値よりかなり小さい値となっている。
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