研究課題/領域番号 |
17K03674
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大橋 弘 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (00361577)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バンドリング / 競争阻害的効果 / 競争促進的効果 |
研究実績の概要 |
バンドリングとは、複数の異なる財・サービスをまとめて販売することを指す。バンドリングの市場競争に与える影響は、原則としては促進的だと想定されるが、場合によっては、一商品のみを販売する事業者の参入や事業拡大が阻害される懼れがあるなど、競争制限的な効果につながることも理論的に指摘されている。バンドリングはそれ自体は昔から観察されるマーケティング手法の1つだが、デジタル化に伴って、様々な財・サービスにおいて広がりを見せ始めている。令和二年度は、これまでに継続する形で、デジタル・プラットフォームの拡大に伴った財・サービスの提供のあり方をまとめた。デジタル化の進展のなかで、様々な交通モードを主軸として、他のサービスが繋がる現象が見られ始めている。とりわけ新型コロナウィルス感染拡大の中で、MaaS(mobility as a Service)と呼ばれるこの手法の持つ意味について、バンドリングの観点から市場環境及びビジネス戦略への影響に対する展望をと分析を行った。またバンドリングは、組織同士の統廃合に対しても経済学的な含意を持つ。組織として公立病院を取り上げ、赤字に苦しむ地域の公立病院における統廃合をバンドリングとして解釈し、バンドリングによる効率性向上効果を定量的に分析した。看護スタッフ等の生産性の向上としてデータから浮き彫りにされる点をわが国のデータを用いて定量的に明らかにした。同様に、国際的なサプライチェーンにおける影響や、エネルギー・医薬品市場などの個別産業の観点からも検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バンドリングに関して、新型コロナウィルス感染拡大における市場競争に対する影響を実証的・規範的な観点からとりまとめ、デジタル・プラットフォームの重要性の新たな側面を明らかにした。加えて、政策的な対応についても分析を深めることができた。とりわけ令和二年度においては、当初目標としていたサプライチェーンにおける影響について国際的な観点から政策提言という形ながら分析ができた。また電力消費データを用いることで、需要家行動における行動経済学的な視点を盛り込みながら、需要家の選択行動から電力の価値(停電価値、VOLL)を顕示選好データから識別する試みに取り組み、学会発表を行った。電力と通信などの他の商財とのバンドリングが見られつつある中で、VOLLを推定することはバンドリングの需要側からの知見を深めるうえで、重要である。通常の文献で用いられてきた粒度よりもきめの細かい時間帯別のデータから、新たな需要家行動の切り口を明らかにし、バンドリングに関する新たな知見を一定程度明らかにできた。更に医薬品市場において、バンドリングの視点が薬剤費抑制効果として有効である点を市場拡大再算定という制度において議論し学会発表を行った。これはブランド品とジェネリック品との組み合わせを考えることがカギとなっている。これらの点で概ね順調な進展と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度となる令和三年度においては、昨年度における電力消費データの分析を論文として更に精緻化し、学術誌に投稿するところまで持って行きたい。またVOLLの推定を踏まえて、電力の供給構造の分析を行い、バンドリングの供給側におけるインセンティブを構造推定によって明らかにしたい。この点を行うためには、電力供給におけるいくつかの追加的な情報が必要である。例えば、電源構成やそれぞれの電源における電源単価、運転維持費や停電確率などの情報が必要である。そのうえで、推定されたVOLLを用いてTSO(transmission system operator; 送電部門)の利潤最大化問題を定式化し、調達すべき電源量を需要抑制(DR; demand response)量とともに導出し、不確実性下における電力分野におけるバンドリングの効果をTSOの観点から調整力や供給力の調達として検討を深めたい。更に、先に述べたわが国の医薬品市場において、ブランド品とジェネリック品とのバンドリングの視点を市場拡大再算定という制度において薬剤費低減の観点からの議論として取りまとめて、論文として投稿を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
~~以前のものです。書き直しが必要です~~
当初計画を効率的・効果的に進めた結果、直接経費を節約できたこともあり、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究の実施を行うことが理由。バンドリングにおける最近の研究成果も踏まえて、これまで収集したデータを、本事業の効率化の結果として収集可能となるデータと接合することで、更なる分析の深堀りを行ない、本補助事業が対象とする分野である産業組織論における新たな知見の開発に努めることが理由となる。
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