2018年度には、産業連関分析で利用されている付加価値誘発の方法を利用することにより、国内の各需要項目(国内消費、国内投資、国内政府支出)及び外国需要(輸出)が誘発した非農業付加価値を推計した。次に、それぞれの需要項目の非農業付加価値誘発額とGDPの比率を計算した。これにより非農業付加価値の対GDP比の上昇をけん引している需要項目を特定化することを試みた。 上述の推計を韓国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンのアジア6か国に対して行った。その結果、以下のことが明らかになった。インドネシアを除く5か国については、付加価値誘発額の対GDP比が一貫して上昇し続けていた需要項目は、輸出だけであった。すなわち、付加価値の観点において、農業から非農業への産業構造変化を牽引してきた需要項目は、上記5か国においては輸出であることが明らかになった。一方、先行理論研究においては、産業構造変化を牽引する需要項目としては、消費に注目が集まってきていた。これは、所得が上昇すると、消費者の消費が食料品などから嗜好品に移っていくという、エンゲル効果を背景にした議論に基づく関心である。しかし、本研究の推計結果によれば、国内消費が非農業付加価値の対GDP比の拡大を牽引しているという結果は得られなかった。非農業付加価値の対GDP比拡大において、国内消費の貢献度が低い理由は、国内消費の農業から非農業へのシフトよりも、輸出の農業から非農業へのシフトの方が速いためである。このため、対GDP比では、同シフトへの国内消費の貢献は小さなものになった。ただし、この結果は消費における農業付加価値の消費から非農業付加価値消費へのシフトを否定するものではない。この点についても、本研究は付加価値誘発の方法を用いて明らかにした。
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