開発途上国が経済発展をしていく際に、その中心産業が農業から工業やサービス業に移っていくという形の産業構造の変化が発生する。ペティ=クラークの法則と呼ばれるこの産業構造変化の存在はよく知られているが、近年この産業構造変化はマクロ経済学上の関心を改めて集めている 。経済発展に伴う農業-非農業間の産業構造変化は、なぜ発生するのか。その発生要因の一つとして、需要の役割が重要視されている。理論的には、産業構造変化の発生要因である需要としては、国内需要と輸出(外国需要)の2つのタイプの需要が存在する。理論モデルは、どちらの需要が産業構造変化を牽引しているかによって、産業構造変化のメカニズムは大きく異なることを示している。それでは、実証的に見て、需要面における産業構造変化のエンジンの役を担ってきたのは国内需要なのであろうか、それとも輸出なのであろうか。本稿は、実証分析の観点からこれまで深く分析されてこなかったこの研究課題に実証的に答えることを試みた。 その結果、東アジア、東南アジア諸国のほとんどの国の場合には、輸出が産業構造変化を牽引していたことを明らかにした。本稿の研究結果の意義の一つは、東アジア、東南アジアの国々のデータを分析することにより、これらの国々においては、エンゲル効果として知られる国内消費の変化よりも、むしろ輸出の拡大が産業構造変化を牽引してきたということを実証的に明らかにした点である。また、社会的意義という観点においては、本研究は、経済成長にも強い影響力を持つ産業構造変化が先発国においてどのようなメカニズムで進展してきたのかの一側面を示した。
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