これまで取り組んできた北陸新幹線延伸(2015年,長野-金沢間)による航空市場への影響に加えて,九州新幹線延伸(2011年,博多-熊本間)による航空市場への影響についても,DID(Difference in Differences)分析を行った.その結果,北陸新幹線との競合によって,運賃水準(イールド)が大きく低下した羽田―小松線・富山線と同様に,九州新幹線と競合する伊丹-熊本線・鹿児島線でもイールドが低下していることが分かった.くわえて新幹線による所要時間が短い路線ほど,イールドの下落幅が大きいことが明らかとなった. また,LCC参入によるFSC運賃への影響についても同様のDID分析を行った.特に2012年から2013年にかけてPeach Aviationとジェットスターが参入した6路線(関空-新千歳線・那覇線・福岡線・鹿児島線・仙台線・長崎線)におけるJALとANAのイールドへの影響に焦点を当てた.LCC参入によって,関空発着便ではLCCとFSCによる直接競争が,伊丹発着便ではLCCとFSCによる間接競争が生じていると定義して考察を進めたが,参入による影響はケースバイケースで,直接競争・間接競争とも一貫した傾向は見出せなかった. 以上のように,FSCの運賃に対する影響は,LCCよりも新幹線の方が大きく,その理由の一つは,新幹線の大きな輸送力にあると考えられる.すなわちFSCにとって,彼ら自身よりも高い頻度と多い1便(列車)当り座席数を持つ新幹線との価格競争は避けることが出来ない一方で,低い頻度かつより少ない座席数のLCCとの価格競争は回避して,低価格を選好するわずかな旅客はLCCに譲り,残りの市場に対してより高い運賃を申し出る方が合理的になるからである.
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