本研究は、貿易財の価格を公的情報とする不完全公的観測の無限回繰り返しゲームを用いた、観察不可能な非関税障壁に関する国際協調の研究である。交易条件は観察不可能な確率変数と各国の政策(非関税障壁と関税によって決まる貿易障壁の大きさ)によって決まるが、各国の政策は交易条件の分布を反対方向に動かす。この分布を確率優位の概念を用いてモデル化し、交易条件(相対価格)を公的情報として利用する非対称戦略(セーフガード戦略)を設計した。この戦略は、交易条件がある程度悪化した国に対して、一時的に関税を上げることを認め、関税を上げた後に、交易条件が改善したら協調(低い貿易障壁)に戻るという戦略である。最終年度である今年度は、その戦略のインセンティブ条件を調べ、どのような環境でセーフガード戦略がインセンティブ条件を満たすか解明した。具体的には、セーフガードを発動した国には十分な利益が確保され、発動された側の国には大きな損失があること、その損得が交易条件の変化によるもの、つまり、公的シグナルとしての交易条件が十分インフォーマティブであることがセーフガード戦略を均衡にする条件である。そこから、最適なセーフガード戦略の設計問題を考えたが、残念ながらそこまでは解明できなかった。 メインの研究とは別に、派生的な別の研究も行った。繰り返しゲームを用いた貿易政策の応用として、環境問題や難民救済に関する国際協定の繰り返しゲームを使った研究も行なった。具体的には、完全観測モデルを利用して、排出量削減や、難民割り当ての国家間の負担をどのように分けるかという問題を考察した。非関税障壁の研究では、処罰の局面で戦略の非対称性を組み込んだが、こちらでは、協調局面で非対称な行動を組み込んだ戦略を考察した。気候変動に関する国際協定の研究は、一通り結果が出たので、学会報告に申込み採択された(学会自体は台風で中止)。
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