研究課題/領域番号 |
17K03691
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
釣 雅雄 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (60401642)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 財政支出 / 過剰消費 / 民間消費 |
研究実績の概要 |
政府が赤字国債などの公債発行により社会保障費を増大させた場合,高齢者の将来負担は限定的であるので,年金・医療・介護など社会保障サービスを過小負担で受けられることになる。そのため,高齢者は生涯所得からみてその消費は過剰となりえる。本研究の目的は,若年世代の消費行動も考慮した全世代合計でも過剰消費が発生しているかを分析することで,マクロ経済での時間を通じた民間消費と所得の関係を導き出すことである。昨年度から引き続き,社会保障を中止とした国の財政支出が民間消費に与える影響を分析した。研究計画当初から引き続き公債発行にかかる金利が低い状況が続いているため,金利や物価との関係分析も必要な状況となっている。研究担当者がTsuri(2014)において行った政府債務のシミュレーション分析(物価および金利)をベースに,金融政策の影響も考慮しながらの分析とした。 分析結果では金融緩和政策の継続により低金利が継続したため,将来の債務増大と民間の利子負担増などが軽減された。そのため,相対的に世代間の格差は拡大していない。本研究の高齢者の過剰消費は継続しつつ,若年世代の消費も抑制されなかったことになる。ただし,社会保障関連の支出は,特に医療費において支出増加が見込まれている。過剰消費の問題では年金を中心に考えた場合と異なり,医療費は年齢とともに平均的に国の支出が増加していく。このことは低金利のもとであっても将来負担の増加が意識されることにつながる。なお,令和元年度は消費税率が引き上がれたため,人々の消費行動に変化をもたらした可能性もある。年金などの所得が一定とすると,医療費負担の増加は織り込み済みとしても金利や物価の低位安定は実質可処分所得を増加させる空である。以上より,全体としては当初予想の状況が継続しており,物価と金利安定を含め,財政支出の社会保障関連増加が過剰消費を生みやすい状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は,研究担当者が社会文化科学研究の研究科長に就き,特に1年目ということもあり,大学の管理運営業務に多くの時間を割くこととなった。また,一昨年度まで大学国際部門(グローバル・パートナーズ副センター長)の担当をしていたが,特にプロジェクトマネージャーとして中心となってすすめてきた日本留学海外拠点連携推進事業(東南アジア)が事業継続となり採択されたため,引き続きその業務にも携わる必要があった。その結果,研究が遅れる結果となったため,当初計画を延長して引き続き令和2年度も研究を継続する。 令和元年度は消費税増税やコロナウイルス対応の財政支出が必要になるなど,当初計画時とは異なる状況が発生している。すなわち国の財政において増税という収支バランスの改善方向と,大規模な経済対策という財政赤字化要因が続けて発生した。研究計画を延長したことで,財政状況と消費の関係という点からこれらの状況を組み込んだ研究が可能となる。そのため,当初計画以上に過剰消費の分析がすすむことも期待できる。研究科長は令和2年度も継続であるが,2年目であるので1年目よりは研究時間の確保が可能である。 今後,政府支出の増大が見舞われるが,一方で給付金など広く国民の一時的な所得増加の政策も採用された。本研究では社会保障のうち公的年金(高齢者の所得)を取り上げて,その積立金も考慮した政府財政の分析を行った。政府債務の維持可能性は政府債務の対GDP比から捉え,その将来経路が発散するかどうかという比較的シンプルな指標を用いた。これまでの研究で,政府債務の対GDP比が安定的となるためには、2040年ころからの基礎的財政収支の黒字が必要となることをみたが,その条件が満たされにくくなった。政府が財政破綻,すなわち政府財政の維持可能性が満たされない状況でも支出を維持するのかどうかが注目される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は主に以下の3点について進めていく。すなわち,(1)データ分析:これまでのデータ整理、シミュレーション分析の結果を直近の状況も踏まえて,アップデートしていく。(2)現状分析の追加:低インフレと拡張的な金融政策が継続している状況に加えて,コロナウイルス対応のための財政支出増加を踏まえて、現在までのデータについても再度分析を行うことで、政策と過剰消費の関係をより明らかにしていく。本分析の重要な論点は、社会保障費の増大は高齢者世帯の生活や健康を支えているが、その費用負担が必ずしも中立命題が成立するような形で若年者世帯にかかってはいないかどうかである。マクロ経済でみると政府支出の増大が完全には民間消費を相殺せず、過剰消費を生み出していると考えられる。(3)モデル分析:を行い、それに基づき財政支出の性質別にグループ化した上で、その性質別に見た民間消費との関係性を明らかにする。引き続き、社会保障の将来推計と政府債務から推計される利払費から,社会保障と財政動向との関係を求める。 なお,令和元年度は年度後半に国内海外出張による研究発表及び情報収集の計画としていた。可能な状況になり次第,計画を立てて実施する。ただし,今後の見通しは不確かであるため,ネットによる意見交換やデータ分析及びモデル分析の強化も平行して行ない,令和2年度中に研究成果をまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度に所属大学大学院の研究科長に就任し,管理運営業務増加のため,国内海外出張のための日程が組みにくくなった。年度末に要諦していたものがあった(海外1,国内1)が,コロナウイルス拡大の影響でキャンセルせざるを無かった。その他はほぼ予定通りであったが,令和2年度の研究継続を見越して若干の次年度支出へと変更した。
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