研究課題/領域番号 |
17K03693
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
亀山 嘉大 佐賀大学, 経済学部, 教授 (30373210)
|
研究分担者 |
野方 大輔 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (20614621)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 観光政策 / 輸送システム / 民営化 / 地域経済 / 消費者行動 / インバウンド / 情報発信 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、地方都市におけるインバウンド観光振興に向けて、日本国内の港湾・航空施設といった輸送インフラの整備を観光政策の中で位置付けるためには、実質的な管理・運営主体である地方自治体は、どのような施策のもとで管理・運営していく必要があるのかを、以下の3方向から探っていくものである。1)国内外で民間資本を活用して港湾・空港施設の運営を行っている機関に聞き取り調査を行う。2)日本国内の港湾・空港施設の利用者である事業者や旅行者のニーズをアンケート調査で把握し、地方自治体の情報発信を含む港湾・空港施設の魅力度に関する計量分析を行う。1)と2)を踏まえて、3)民間資本を活用した港湾・空港施設の運営の効率性や可能性に関して、政策科学的な理論・計量分析を行い、政策提言に繋げる。 2020年度は、3)に関係した研究を進めた。第1の方向性として、産業集積の効果を「個々の企業の製造品出荷額を輸送費で割り引き、産業別に集計した地域需要の大きさ」で定義したマーケットポテンシャル(MP:Market Potential)によって算出した上で、港湾後背地のMPと港湾の利活用の変化に関するパネルデータ分析を行った。第2の方向性として、コロナ禍でインバウンドが激減したことを背景に、「訪日外国人旅行者の地域(観光)需要の大きさ」である観光マーケットポテンシャル(TMP:Tourism Market Potential)を計測した上で、インバウンド振興が地方都市の地域活性化に寄与したのかどうかに関するパネルデータ分析を行った。 これらの成果は『海事交通研究』と『交通学研究』から刊行した。その他、共同研究として、Spatial Economics for Building Back Better: The Japanese ExperienceをSpringerから刊行予定(2021年夏頃)である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、研究実績の概要でも述べたように、第1の方向性では、MPや都市規模(機能)が港湾の利活用(物流と旅客)とどのような関係にあるのかを分析した。推定結果から、貨物取扱量は、輸出で後背地の産業集積と海外の関係の需要規模であるFMP(MP)、港湾の混雑度と正の関係、輸入で港湾の混雑度と正の関係にあることを示した。コンテナ取扱量は、輸入で後背地の産業集積と海外の関係の需要規模であるFMP(MP)、人口規模と正の関係、港湾の混雑度と負の関係、輸出で人口規模と正の関係、港湾の混雑度と負の関係にあることを示した。後背地の産業集積と海外の関係の需要規模であるFMP(MP)や後背地の人口規模は、コンテナ取扱量に寄与しているものと推察できる。クルーズ船の寄港回数は、後背地の産業集積の需要規模であるDMP、港湾の混雑度や後背地の人口規模と負の関係、国際旅客船拠点形成港湾ダミーと正の関係にあることを示した。これらの分析結果から、港湾の混雑度は、物流(コンテナ船)にとっても旅客(クルーズ船)にとっても寄港の阻害要因になっているが、国際旅客船拠点形成港湾の選定は、一定の役割をはたしているといえる。 第2の方向性では、TMPによって、訪日外国人旅行者数を単純な規模であるGrossの効果ではなく、発地から着地へのアクセシビリティを内包したNetの効果で計測し、TMPと観光政策が都道府県の生産性と賃金にどのような影響を与えてきたのかを分析した。推定結果から、TMPと観光政策はどちらも都道府県の生産性と賃金にポジティブな影響を与えていることを示した。一方で、パラメータ推定値の比較から、TMPや観光政策の効果は小さいことを示した。 ただし、民間資本を活用した港湾・空港施設の運営の効率性や可能性に関して、直接的な分析に踏み込めなかったので、この点で課題が残った。最終年度に対応したい。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度が本研究課題の最終年度であった。しかし、研究代表者が、2019年度 第33回 応用地域学会研究発表大会の実行委員長を務めたことで、その対応に追われて研究スケジュール通りに実施できなかったため、期限延長を申請した。さらに、2020年度は、コロナ禍で現地調査の実施などでさらなる見直しが必要となったため、さらに期限延長を申請した。 今後の本研究課題の推進方策は、1)これまでに実施してきた文献調査や現地調査をもとに、国内外で民間資本を活用して港湾・空港施設の運営を行っている事例をまとめる。2)ここまでの文献調査や現地調査(含むアンケート調査)に基づき、港湾・空港施設の民営化が地域経済に与える影響を考察・分析しまとめる。作成した論文は、順次、日本交通学会、日本海運経済学会、応用地域学会、あるいは、海外の関連の学会や研究会で報告し、コメントを踏まえて研究成果をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度応用地域学会佐賀大会の大会実行委員長を務めたことで、事前準備から大会の後始末に至る6~12月を学会運営業務が占めることになり、業務全般に多忙を極めることになった。そのため予定していた海外調査や分析を実施できなかった。このことを主要な理由として、事業延長を申請した。さらに、2020年度は、コロナ禍で調査や報告をはじめとして十分な研究活動が実施的なかったため、さらに事業延長を申請した次第である。今後の使用計画としては、英文校閲、学会費、ならびに、次年度の学会報告で出張が可能なら、そのための旅費を想定している。学会がオンライン開催の場合、データ整理などにかかる謝金で使用したい。
|