研究課題/領域番号 |
17K03694
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
宍倉 学 長崎大学, 経済学部, 教授 (40444872)
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研究分担者 |
中村 彰宏 横浜市立大学, 国際マネジメント研究科, 教授 (00368581)
春日 教測 甲南大学, 経済学部, 教授 (50363461)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メディア / 二面市場 / 広告 / 有料 |
研究実績の概要 |
平成29年度はメディア・プラットフォームに関する基本モデルを構築し、利用者が支払う価格がゼロ以下になる場合は、広告効果を供給するために消費者が負担するシャドウコスト(広告への不効用)が広告取引において十分には組み込まれない可能性があることを指摘した。平成30年度は、これら分析を拡張し、有料オプションの導入によって利用者が広告回避可能になることで、メディアの広告取引が如何なる影響を受けるかを分析した。 ネットを通じたメディア市場への新規参入の進展によって、利用者の注目獲得をめぐる競争が進む一方で、個別メディアは広告効果の減少を補うためにサービスの有料化を進めている。有料化が進むと、メディアは消費者が負担するシャドウコスト(広告の不効用)を積極的に考慮するようになるものの、考慮の仕方は有料化導入方法によって異なると考えられる。そこで平成30年度は、有料オプションの導入方式により均衡下の広告量が異なること、また同広告量に対する評価も異なることを、モデル分析を通じて明らかにした。 具体的には、①純粋広告型のケース、②独立した2つの供給主体がそれぞれ有料と広告でサービスを供給するケース、③1つの供給主体が有料型と広告型のいずれかを選択可能な形でサービスを供給するケース、の3つの供給体制下の均衡広告量と最適広告量を導出し、有料化の導入方式の違いが最適量と均衡量のかい離にもたらす影響を検討した。主な結論としては、有料で広告回避可能になることで、メディアは利用者のシャドウコストを考慮するようになるものの、その組み込み方は3つのケースで異なること、ケースによっては利用者が負担するシャドウコストが大きくなるほど広告量が増加する可能性があること、これに伴い最適広告量からのかい離(過剰広告)が拡大する可能性があることなどを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論面での分析は順調に進んでいる。尚、平成30年度の理論面での研究成果は、平成30年5月にソウルの韓国大学で実施されたThe 22nd Biennial Conference of the International Telecommunications Society、10月に大東文化大学(板橋キャンパス)で行われた日本応用経済学会秋季大会で報告している。これら報告で指摘された点などを踏まえ、現在理論分析の内容を再度検証しつつ、学会誌への投稿準備を行っているところである。 一方、実証分析については、当初予定では29年度と30年度の2回に分けてアンケート調査を実施する予定であったが、予算を分割することで回収可能なサンプル数や設問が制約されることや、理論分析の成果と整合的な調査とするために、調査時期を再設定して、一括で実施する形に変更することとしている。
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今後の研究の推進方策 |
メディア・プラットフォームによって供給される情報財は、内容が同じコンテンツであっても、広告(量や質)や提供のタイミング、利用の際に必要となる手間などの点で、差別化されている。今後はこのような利用者が負担する情報財の消費コストや広告効果の違いを、分析に明示的に取り組むことを予定している。また、本研究の分担研究者2名が、それぞれ令和元年の7月もしくは8月まで北欧および米国にて在外研究中であるため、同地域の市場及び政策の動向に関する情報収集の結果を分析に加味する予定である。 また、平成30年度に構築した理論分析の結果を踏まえて、令和元年には利用者が負担するシャドウコストを規定する要因を明らかにするための実証分析を行う予定である。具体的には広告回避に対する支払意思額の推計を通じて、メディアの種類、個人属性、個人選好と消費者が負担するシャドウコストの関係を検討する。現在は、先行研究の整理と同調査のための調査票の設計を行っているところである。実証分析については、実施時期が当初の予定とは異なっているものの、機会を集約することによるメリットの方が大きいため、特段の問題はないと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本調査研究では、実証分析のためにアンケート調査を行うことを予定している。アンケート調査については、当初は平成29年度と平成30年度に分割して実施する予定であったが、調査を分割することで調査項目や回収者数が限定されてしまい、分析の精度や多様性が低下してしまう。これらの問題に対応するとともに、より豊富な調査データを収集することを可能にするために、予算を繰り越すことで調査を集約して実施することとした。 また現在研究分担者2名は平成30年9月より在外研究中(米国と北欧)であることから、現在は主に海外の市場状況等を中心に調査研究を進めているところである。令和元年7月から8月には両名とも帰国予定であることから、これに併せてアンケート調査の実施と分析を実施することとした。 なお、アンケート調査については在外中の研究分担者と連絡を取りつつ、8月までに調査票を完成させて、9月以降に調査を委託する予定であるが、繰り越した助成金は同委託のために使用する予定としている。
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