本年度の研究は、米国が非伝統的金融緩和政策を実施するなかで、新興国のうちロシアの通貨当局の政策がロシアの金融市場や実体経済に与える影響を分析することに充てられた。具体的にはFAVARモデルを用いてロシア中銀の金融政策が経済活動や金融市場に与える影響を明らかにした。データは米国のデータも含む39系列の月次マクロ経済指標であり、2004年1月から2019年12月までの期間のものが使用された。本研究では分析期間を4つに分割した。第1期は2004年1月から2008年6月まで、第2期は2008年7月から2013年8月まで、第3A期は2013年9月から2019年12月まで、第3B期は2014年11月から2019年12月までである。 第1期から第3A期・第3B期までの結果は、キーレートが市場利子率に与える効果は強められたことを示している。さらに、金融政策が消費者物価下落に及ぼす直接的な効果は見い出せず、むしろルーブル下落の緩和が物価を安定させたと言える。ロシアの金融政策の独立は、ロシアの石油・ガスへの依存が高いことやエネルギー価格と為替レートとの関連が強いことが一因となって、制約を受けている。このため、ロシア中銀は為替レートの乱高下に直面して、為替レートの変動率を緩和させるための措置を採らざるを得なくなった。結果として、ロシア中銀は国際金融のトリレンマから為替レートの安定と自由な資本移動を選び、一時的に独立した金融政策よりも優先させた。 ロシア中銀は、現在の枠組みではルーブルレートの水準に影響を与えるような介入を実施していないと述べている。このことは為替レートの安定を放棄して、独立した金融政策と自由な資本移動を選んだことを意味する。しかし為替レートが急激に変動するならば、独立した金融政策を放棄せざるを得ないであろう。
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