研究課題/領域番号 |
17K03709
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
和田 龍磨 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (20756580)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バンドスペクトラル回帰 / LASSO / ベイズ法に基づくモデル平均 / 為替レート / 国際マクロ経済 / 周波数領域 / 仮説検定 |
研究実績の概要 |
時系列マクロデータ、とりわけ外国為替レートデータについてバンドスペクトラル回帰を実用可能なものとするとともに、サンプル外の値(将来値)予測において、特定の周波数帯を用いた方が伝統的な時間領域、すなわちすべての周波数を使った場合での予測より優れているか否かについて検討を行った。6か国の為替レートについて分析した結果、それぞれの為替レートにより、予測において重要な周波数帯は異なるものの、おおむね特定の周波数のみを用いた予測が時間領域での予測より正確であった。このことはさらに、ブートストラップ法に基づく検定によって、統計的に有意に優れた予測であることが確認された。 また、昨年度の研究実績の概要で述べたとおり、昨年度の研究では鍵となる周波数帯の効率的な検出方法については完成に至らなかった。この点につき、今年度は以下の2つの方法を検討した。1つはベイズ法に基づくモデル平均法であり、経済分析においてしばしば用いられるいくつかの周波数帯に基づく回帰による予測を事後確率によって平均して予測を行うが、この事後確率を比較することによって重要となる周波数帯が判明することになる。ただし、この方法を使用する際には、あらかじめ候補となる周波数帯をいくつか用意しておく必要がある。今年度検討したもう1つの方法はLASSOを用いることである。LASSOは回帰分析において比較的重要度が低い変数には係数0を選択することから、あらかじめ候補となる周波数帯を指定することなく、予測にとって重要でない周波数を除外することができると考えられる。 以上のように、本年度はバンドスペクトラル回帰分析による予測において、方法論的新展開をみた。初稿をWEAI年次大会(カナダ・バンクーバー)、慶應義塾大学経済学部、ボストン大学、およびSNDE年次大会(アメリカ・ダラス)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にあるように、当初予定していなかった方向へ新展開(拡張)がみられたことと、比較的早く初稿が完成したことによりセミナー・コンファレンスでの発表が可能にったため。なお、このような発表時に得たコメントにより、論文の質が向上したと思われる。また、複雑な予測問題であるためにバンドスペクトラル回帰による予測がベンチマークとなる予測より有意に優れているという検定はブートストラップによらざるを得ず、この計算には時間がかかるものの、この検定によって説得的な結果を得ることができた。 ただし、本年度までのところはバンドスペクトラル回帰の予測問題への応用であり、その他のマクロデータについての応用可能性についてはまだ考察を行っていないため、その点も考慮に入れた場合には、本年度までの本研究はおおむね順調な進捗と言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる来年度は、以下の2点に重点を置き、本課題を完成させる。まず、為替レート予測に関する論文を完成させる。この際、検定手法を精緻なものとし、鍵となる周波数として推定されたものがどれほど信頼できるかを検討する。とりわけ、LASSOを用いた場合には複雑な変換を含んでいるため、これによって推定された周波数および予測値のついての統計的有意性の検定方法を慎重に考察する。さらに、為替レートの変動に影響を与えると考えられるファンダメンタルについても、本年度までに考慮した変数のほかに通貨供給量およびGDPギャップについて計測方法を変更して為替レートへの影響、予測可能性を検討する。 2点目は、為替レート以外のマクロ変数へのバンドスペクトラル回帰の応用である。この際、ベクトル自己回帰モデル等にバンドスペクトラル回帰を応用することによって統計的に有意な変数の関係が特定の周波数帯において存在するか否かについて分析する。この際にも有意性の検定においては複合仮説になるため、漸近分布が知られているためにしばしば用いられるt検定ではなく、ワルド検定の使用が考えられるが、この場合には小標本特性だけでなく、漸近分布も明確ではない。この点に注意を払って研究を遂行する。
論文の改訂を重ねる一方で、コンファレンス・セミナーにも積極的に参加し、報告を行う。特にベクトル自己回帰モデルへの応用に関しては研究協力者を海外から招聘することも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外から研究協力者の招聘を予定したが、日程が合わずに実現しなかったことにより未使用が生じた。今後、可能であれば招聘費用としての利用を考えている。
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