研究課題/領域番号 |
17K03713
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
本庄 裕司 中央大学, 商学部, 教授 (00328030)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スタートアップ / 成長プロセス / 初期条件 / 変化 / 退出戦略 |
研究実績の概要 |
本研究では,新しい技術を必要とする事業分野を中心に創業間もないスタートアップ期の企業(スタートアップ企業)の所有や資金調達が設立後どのように変遷していくかを示したうえで,起業家の人的資本を含む初期時点(設立時点)の状況とその変化がIPO (initial public offering) やM&A (mergers and acquisitions) などの退出戦略やその後のパフォーマンスにどのように関係するかを検証する.平成29年度の研究実績として,これまでに作成したデータセットをもとに,いくつか予備的研究に取り組んだ. まず,日本のスタートアップ企業のデータセットを用い,設立時点の技術志向(技術投資)がその後の退出戦略に与える影響を明らかにした.推定結果から,初期時点の技術志向のあるスタートアップ企業ほど早くIPOを達成しており,また,市場の景況がスタートアップ企業のIPOのタイミングに影響することを示した. つぎに,バイオテクノロジースタートアップのデータセットを用い,設立時点のベンチャーキャピタルや大学の関与がその後のIPOに与える影響を明らかにした.推定結果から,設立時点でベンチャーキャピタルが関与するバイオテクノロジースタートアップ,また,大学発ベンチャーほど早くIPOを達成することを示した. さらに,製造業・情報通信業のスタートアップ企業のデータセットを用い,設立以前の起業家の技術知識が資金調達に与える影響を明らかにした.推定結果から,設立以前に技術知識を有する起業家ほどエクイティファイナンスに頼る傾向がみられており,また,こうした企業ほど,他の企業より成長率が高く,倒産の可能性が低い傾向がみられた. スタートアップ企業のパフォーマンスが初期時点の状況に依存しやすいことから,発明者やハイテクスタートアップの支援に向けて,設立時の環境の整備が重要と示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,(1) 先行研究・文献調査,また,(2) 変数(データ)・モデルの検討を行った.加えて,これまでに作成したデータセットをもとに,(3) 予備調査分析を試みてた.それぞれの内容を以下に示す. まず,先行研究・文献調査について,産業組織論,中小企業論,ファイナンス分野の先行研究のサーベイを行い,これまでに取り組まれてきた先行研究の研究成果をまとめた.とりわけ,日本のスタートアップ企業を対象とした先行研究では,個人投資家やベンチャーキャピタルを含む所有構造を十分に検証できておらず,データの入手を含めた分析の必要性が明らかとなった.また,専門家を交えた研究会や専門家との議論を通じて,これまでに日本で取り組まれた創業や創業支援に関連する制度や政策への理解を深めた. つぎに,変数・モデルの検討を行い,既存のデータベースから得られる変数およびその限界(問題点)対する理解を深めた.とくに,株式所有に関するデータは,タイミングを含めて入手が難しく,どのようなデータベースを用いてスタートアップの所有構造の変遷をとらえるべきかについて検討した.さらに,本研究の目的や政策的インプリケーションに鑑みて,技術志向の高い事業分野を中心にデータセットを構築することが適切であると判断し,こうした知識にもとづいて,平成30年度以降,実証分析に用いるデータセットのおおよその方向性を固めることができた. さらに,予備調査分析として,前述のとおり,これまでに作成したデータセットにもとづいて,いくつかの研究成果を得ている.そこで得られた研究成果と問題点を精査し,今後どのような変数を必要とするか,とくに,退出戦略の主たる要因として何が重要といえるかを検討した.こうした検討は,スタートアップ企業の成長プロセスを明らかにするモデルやその推定方法の発展の契機となった.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,(1) 新たなデータセットの作成,(2) 設立後の変遷の調査,(3) モデルの推定と推定結果の考察を中心に行っていく. まず,前年度までの変数やモデルの検討にもとづいて,新たなデータセットの作成を行う.とくに,諸外国企業との比較の可能性,また,企業固有効果を考慮したモデルの推定などに配慮して,データセットを作成する.つぎに,IPOとM&Aの退出戦略の有無やそのタイミング,また,退出戦略までのデットファイナンスおよびエクイティファイナンスの変化を含むデータを作成する.なお,IPOをはたした株式公開企業については,目論見書を通じてIPO前の財務データや所有構造のデータ,さらにはIPO後の時価総額のデータを追加していく.加えて,公的機関(たとえば,NEDOなど)やその他団体からの補助金の利用の有無をデータセットに追加する. つぎに,設立からの変遷の調査について,データセットをパネルデータとして構築したうえで,設立から退出戦略までのエクイティファイナンスやデットファイナンスの変化,また,データ入手可能な企業については,所有構造の変化を明らかにする.とくに,ベンチャーキャピタルや事業会社がいずれのタイミングで参加したかを明らかにしていく. さらに,モデルの推定について,IPOやM&Aの退出戦略を従属変数,設立時の資金調達およびステージごとの資金調達をおもな独立変数としたモデルを推定し,初期条件,あるいは,その後の変化が退出戦略を決定づけるかについて検証する.また,IPOをはたした企業については,IPO時の時価総額だけでなく,内部収益率,それまでの投資額で割引いた値を従属変数としたモデルを推定し,どのような企業が株式市場で高い評価を受けるかについて分析する.こうした推定結果にもとづいて,スタートアップ企業の退出戦略の決定要因を考察していきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度(平成30年度)に約16万円の使用額が追加で発生した.その理由として,当初,計算能力を高めるために分析用コンピュータの環境を変更することを計画していたが,これまでに作成したデータセットにもとづく予備的調査を継続的に実施することから,大幅な計算環境の変更を避けるために,予定していたパソコンの購入を見送ったためである(平成29年度は既存のパソコンでそのままデータの整理や推定を行った). 次年度の使用計画として,今後,データセットの作成に予想以上の労力が必要であると予想されることから,データ購入の費用およびデータ購入後にデータを整理するための補助作業(アルバイト代)に使用することを計画している.
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