最終年度の2022年度は、本研究プロジェクトが掲げてきた目標のうち、①全国規模の、家計調査原データを使用して、②価格の調整を時間に対してしか行なっていない研究が多い中、空間(州/地域の都市・農村間の生活コストの違い)に対しても行ない、③Blinder-Oaxaca分解の手法を用いて、教育、年齢、ジェンダー、職業といった世帯の特性で、地域間の消費支出格差を要因分解した。所得データではなく、消費支出データを用いたのは、富裕層の豊かさを過小評価してしまうデメリットをともなうものの、季節性や不安定性を是正したり、申告漏れによる不正確性を少なくしたりすることが可能であり、途上国の場合、所得に比べると消費支出のほうが格差を正確に補足できると考えられているからである。世帯の属性で、地域間(都市・農村間)の消費支出格差を要因分解したところ、世帯主の教育水準が消費支出格差にもっともインパクトを与えていることがわかった。インドネシア、フィリピン、インドの3か国それぞれの分析を行なった後、それら3か国を比較した。それらの結果を2本の論文にまとめて刊行している。 これまで、2018年度にインドネシアで、2019年度にフィリピンとインドで現地調査を実施したが、それ以降は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生・拡大したため現地を訪問することがかなわなかった。2022年度はCOVID-19の影響があったものの、2020年度、2021年度に比べれば小さくなりつつあったため、10月末から11月前半にかけて、駆け足ではあったが、フィリピンで現地調査を実施することができた。マニラおよびその周辺地域のスラム街をはじめとする低所得者の居住する地域と高所得者層の暮らす地域を訪ね、格差の実態を観察し、その感覚と家計データを用いた定量的分析結果が一致しているのかどうかについて確認を行なった。
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