研究課題
生産性を向上させるための方策を探ることは供給制約下にある日本経済において最重要課題の一つである。本研究ではICT 投資が雇用や生産性に与えるインパクトに注目し、産業及び企業レベルのデータを用いた実証分析を行った。産業レベルデータを用いた分析では、ICT投資や資本ストックと高スキル労働者の間の補完関係、低スキル労働者の間の代替関係などを想定し、日本と韓国の労働需要に対するICT投資の導入に関連するスキル偏向的技術進歩の影響について実証分析を行った。結果、日韓ともに高スキル労働者とICT投資は補完関係にあることが示された。ICT投資に関連したスキル偏向的進歩による低スキル労働者から高スキル労働者への需要のシフトが発生していることが明らかとなった。企業レベルのデータを用いた分析では、ICT投資が企業の雇用と生産性に与える短期的な影響を、因果関係の識別に配慮しながら実証的に検討した。具体的には、「2003年と2008年に日本で実施されたICT投資関連税制の変更がICT投資に与えた影響」を明示的に調査した結果を利用して、税制の変更に起因する外生的なICT投資の増加を計測し、このICT投資の増加が企業レベルの従業員数、ICT人材の雇用数シェア、社内のICT人材と外部からの派遣ICT人材の雇用数、労働生産性に与えた影響を推定した。その結果、当該ICT投資の増加は社内ICT人材の雇用を増加させたこと、当該ICT投資の増加が労働生産性に与える短期の影響は限定的であったことがわかった。これらの結果は、税制ショックに起因する外生的なICT投資の増加によって、社内人材がICT資本と補完的なタスクへ短期間に再配分されたことを示唆している。
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