研究課題/領域番号 |
17K03720
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
加納 和子 (竹田和子) 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (20613730)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 家庭内在庫 |
研究実績の概要 |
2018年度は、本プロジェクトの研究成果が論文"Consumer Inventory and Demand for a Storable Good: Evidence from Consumer Surveys"として、国際的学術雑誌Japanese Economic Reviewにおいて出版された。この論文では家庭内在庫の統計的性質を明らかにし、誘導系の計量経済学的モデルによる推定結果を発表した。特に、先行研究で用いられている手法である購買データのみから導出した家庭内在庫を用いた場合と実際に観察された家庭内在庫を用いた場合では、購買確率の推定等に異なる結果が得られることを示した。消費者によるブランド選択は考慮されていないため、より説明力の高い分析を行うためにはブランド選択を考慮する必要があることを議論した。 ブランド選択を考慮するにあたり、2018年度は以下を行った。(1)ブランド選択分析を行うための準備として、データクリーニングを行った。(2)家庭内在庫と消費者購買のデータを用いて、消費者のブランド選択推移を統計的に分析し、ブランドスイッチングについて統計的分析を行い、購買履歴および保持在庫との関連を考察した。(3)ブランド選択を考慮した誘導系分析を行うため、Multinomial Logit Modelを用いて分析を開始した。(4)動学的需要モデルの構築を開始した。 以上に加えて、より信頼性の高い分析を行うため、追加的に家庭内在庫観察期間前後の消費者購買データを新規取得した。既存データの観察期間は3カ月程度と短いため、購買の観察回数が少ないことが問題であった。2018年度に購入したデータでは、より長い期間のブランド選択遷移が観察できることから、より信頼性の高いブランド選択確率を得ることができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、研究論文が査読付き国際的学術雑誌に掲載された。該当年度初頭は、主にこの論文の最終改訂を行った。 続く研究内容として、平成30年度研究実施計画では、(1)ブランド選択を考慮した誘導系モデル(Multinomial Logit ModelおよびMixed Logit Model等)への拡充、(2)動学的需要モデルの構造推定に向けての準備、(3)消費財の購買に関するアンケート調査を行うものとした。 このうち(1)については、研究実績の概要で述べたように、より信頼性の高い分析結果を得るため追加的に購入した新規データを既存データと接合して現在分析を進めている。既存データの分析では、特に大手ナショナルブランドの製品をを継続的に購入する消費者と価格重視の消費者のブランド選択パターンの違いが示唆された。新規購入データを接合することにより、この傾向がより明らかとなった。(2)については、ブランド選択を考慮しない場合のモデルについてシミュレーションを開始した。今後ブランドを含めたモデルに拡張し、推定につなげる予定である。分析に際しては、これまで使用していた統計ソフトStataおよびMatlabに加えて、より柔軟なアルゴリズムに対応できるようRおよびPythonの習得を開始した。(3)については、アンケート調査ではなく、先に述べた追加的な消費者購買データの購入に充てることとした。新たなアンケート調査を行うよりも、分析対象期間と同一のモニターについてより長期の購買記録を得るほうが、有益であると判断したことによる。 (1)から(3)については分析途上であるものの、これらの箇所はデータクリーニングおよび分析手法の実装について多大な時間と労力がかかる部分でもあることから、分析の進捗はほぼ予定通りといえる。また、研究成果の出版にいたったことから、研究全体の進捗としてはおおむね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、引き続きブランド選択を考慮した統計的分析および構造推定の準備を行う。ブランド選択を含めた統計的分析については、(1) 統計的性質の明示、(2) 離散選択モデル(Multinomial Logit Model、 Mixed Logit Model等)を用いた誘導系モデルの分析、(3)ブランド選択を用いない基本モデルの構造モデル推定のため、理論モデルのシミュレーションとモンテカルロ分析の完了を目標とする。昨年同様動学構造モデルの推定はNested Fixed Point Algorithmを使用する予定であるが、近年開発されたアルゴリズムの実装も検討する。 以上の研究成果について、順次論文の執筆、各種研究会での報告を行い、国内・国際学会での報告、査読付き国際的学術雑誌への投稿を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、投稿論文の最終版作成、新規データの取得、既存データと新規データを接合しての統計分析、ブランド選択モデル分析および構造推定に向けてのシミュレーション準備を行った。平成30年度はコンピューターおよびソフトウェア・周辺機器の購入およびデータの取得を行ったが、平成29年度の未使用分まで利用するに至らなかった。分析環境の整備については、RおよびPythonを利用する際の環境整備構築は無償で提供されており、費用がかからなかったことも一因である。今後、さらなる研究環境の整備および論文執筆・研究成果報告の資金としたい。
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