研究課題/領域番号 |
17K03721
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
山内 勇 明治学院大学, 経済学部, 講師 (40548286)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実用新案 / 特許 / イノベーション |
研究実績の概要 |
平成29年度は、主に、中小企業による特許取得の決定要因やその効果についての分析を行った。その際、これまで行われてきた先行研究についての包括的なレビューも併せて実施した(この成果は「特許研究」に掲載)。それによれば、特許の取得が正の効果を持つのは、そもそも企業が知財活動に積極的に取り組んでいる場合が多いことが分かった。したがって、資金的・人的制約等により知財活動にリソースが割けない企業は、たとえ知財保護が強化されたとしても、知財活動を行っている企業と比べると成長率が低くなりやすいことが考えられる。 この点について、本研究では、そうした制約が大きいと考えられる中小・ベンチャー企業の中でも、特許を取得した方がパフォーマンスが高まるかを分析した。今年度の試行的な分析結果によれば、操作変数を用いて内生性をコントロールしても、特許取得は中長期的に、付加価値や研究開発支出の上昇に結びつくことが明らかとなった。また、最初の特許取得により、ベンチャー・キャピタルからの資金獲得の可能性が高まることも分かった。 さらに、設立から最初の特許取得までには長期間を要するが(平均で30年以上)、そのきっかけとして、実用新案の出願経験や、他社(特に関連企業)との共同出願が重要であることも示唆された。したがって、実用新案制度の存在が、中小企業に知財活動経験を蓄積させ、それが特許取得を促しパフォーマンスを高める可能性がある。この点については、次年度以降に分析を進めていく予定である。 なお、実用新案の無審査主義への移行は、特に審査が重要であった分野において、実用新案から特許へのスイッチを促したと考えられる。しかし、分野別に全体的な動向を見る限り、審査請求率が高かった分野の方が、無審査主義への移行後に実用新案の出願の減少が抑えられている。この原因についても次年度以降に探求していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、先行研究のレビューを行い、また特許データを整備したうえで、試行的な分析を行うことができた。ただし、分析の質を高めるためには、操作変数についてもパネルデータの構築が必要であることが分かった。この作業については次年度の計画に追加して行うこととした。 他方で、今年度は、実用新案のデータ整備にも着手することができた。しかし、本格的なデータセットの構築には、出願人の名寄せ・同定を行う必要があり、この作業については、予定通り次年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、実用新案に関するデータベースを、特許庁の整理標準化データから構築する。出願人の名寄せやクリーニングについても、専門業者やリサーチアシスタントを活用しつつ、これまで特許データベースについて行われてきたものと同様の作業を行う。平成30年度の多くの時間はこのデータベース構築作業に費やされることになるが、こうしたデータベースはそれ自体が非常に貴重な研究インフラとなるため、この分野の研究の進展のために一般公開することも検討する。 平成30年度の後半は、構築したデータベースを用いて実用新案権の取得効果に関する分析を行う。特許権の取得効果に関する先行研究は多数存在するが、実用新案権と特許権では保護される発明・考案が異なる部分があり、また、制度の趣旨も異なりうるため、それらの違いを考慮した分析が必要になる。制度の趣旨については、研究協力者である知財法学者の知見を活用し、考慮すべき変数を特定する。例えば、実用新案権制度に中小企業支援の目的がより強ければ、中小企業が規模を拡大するにつれて、実用新案の効果が低下するといった仮説の検証も必要になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
リサーチアシスタントの生産性が高く、勤務時間を短縮できたため、次年度使用額が生じた。次年度はデータベース構築と検証作業に多くのリソースを割く必要があり、翌年度分として請求した助成金は、その作業のために有効活用する。
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