最終年度は、分析に先立ち、イノベーション活動を測定する指標についての先行研究の詳細なレビューを行った(この成果は国内誌「統計」に掲載)。そのうえで、近年注目を浴びている特許権の不行使誓約について、その背景を整理するとともに、開放される特許の特徴やその効果について実証的な分析を試みた(この研究結果は国内誌「特技懇」に掲載)。 分析の結果、不行使制約に基づき開放された特許権は、他社に活用されればそれはイノベーションの促進に寄与する可能性が高いことが明らかとなった。他方で、特許権の開放には、知識の普及という点で課題があることも分かった。ソフトウェア分野の特許開放では知識の波及効果が強く見られたが、それは大企業のみに対してであり、環境分野に至っては(サンプル数の問題も大きいと思われるが)統計的に有意な効果は見られなかった。分野の違いや開放の目的の違いの影響も大きいと思われるが、開放される特許の特徴が両者の活用のされ方の違いの一因となっている可能性もある。 したがって、特許権の開放は、オープン・イノベーションが求められる現代に即した特許制度の利用方法として重要と考えられるが、活用されるような特許を提供させる仕組みづくりには、政策面でのインセンティブ設計やサポートも必要と考えられる。例えば、重点分野における開放特許の維持料金を下げることや、価値評価のガイドラインの策定、開放特許データベースの利用促進等も検討に値するだろう。 また、分析対象となった開放特許は主に大企業に活用されており、中小企業との格差が大きい。したがって、特許権に基づいた研究開発コミュニティへの参加が行いやすくなるよう、中小企業への特許取得支援は引き続き重要な政策であると言える。
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