2019年度は,前年度および前々年度に実施した経済モデルと環境モデルの開発検討,必要となるデータ収集等に鑑みて,各モデルの修正および統合とシミュレーションのための対象流域圏の選定を行った.過去の調査も含めて検討した結果,愛知県豊川流域圏を対象としてモデル化することを決定した.当該地域に関する各種経済データや人口,インフラ関連などの社会データ,全窒素,全リン,CODなどの水質汚濁物質データ等を収集した.また,土地利用データをはじめとする地理的なデータについても収集・加工した.前年度までに開発した各モデルを統合し,対象流域圏に適用して動学的最適化シミュレーションのためのモデルにカスタマイズした.目的関数を地域GDPとして,水質汚濁物質の排出制約,導入する政策等をモデルとして組み込んで流域圏シミュレーションモデルを構築した.環境経済政策としては,土地利用転換および産業への補助金を設定し,さらに植物工場のような制御型農業を仮想的に導入するケースも検討した.10期モデルの計算の結果,人口の将来シナリオを反映して流域人口が減少するため目的関数である地域GDPおよび水質汚濁物質の排出量は減少するが,政策導入により一人あたりの地域GDPは増加することが明らかとなった.また,シミュレーションにより水質汚濁物質の削減率は最大で6.4%との結果となった.同様に土地利用転換や産業補助金についても,その規模と対象とする地域や実施するタイミングが明らかとなった.以上より,本研究によって流域圏を対象とする政策評価の手法のひとつが提示され,流域圏環境経済政策の有効性が確認できた.今後,他の地域に適用しより精度の高い分析を行うためには,対応するデータの整備が必要となる.
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