研究課題
本研究課題の目的は、急増する自由貿易協定(Free Trade Agreement; FTA)に関して、非対称的な2国によるFTAが非常に多いという今日的特徴に着目して、非対称的な2国間でのFTAが世界全体の貿易自由化を促進するか否かを理論的に検討することである。平成30年度は「企業の技術選択がFTAの形成ならびに多国間での貿易自由化(Multilateral Free Trade; MFT)の促進に与える影響」を主たる研究課題とし、3国3市場モデル(対称的な市場)に内生的な技術選択(費用削減的なR&D投資活動)を導入することで、企業の技術選択とFTA形成の関係について考察した。平成30年度の取り組みによって、以下の3つの主たる結論を得た。1つ目は、2国間FTAの形成は、FTA加盟国企業による新技術の採用(R&D投資活動)を促進する傾向があることである。2つ目は、2国間FTAの形成は、非加盟国企業の新技術の採用を阻害し、新技術の採用企業数(R&D投資企業数)を減少させる場合があることである。3つ目は、2国間FTAの形成は、FTA加盟国企業の新技術の採用を阻害する一方で、非加盟国企業の新技術の採用を促進する場合があることである。以上の分析結果は、FTAの形成によって特定国間の貿易の自由化を促進することが、域内企業の技術的優位性を作り出す傾向を有するものの、場合によって域内企業の技術的優位性の形成を阻害しうることを示唆している。こうした結果は、各企業が費用削減的なR&D投資活動を行うことが、FTAの形成を阻害する可能性を示すものであり、各国の通商政策・産業政策の在り方や、WTOの役割等を検討するうえで意義のあるものと考えられる。
3: やや遅れている
平成30年度は、「企業の技術選択がFTAの形成ならびにMFTの促進に与える影響」を主たる研究課題とし、年度内に関連する海外査読誌に投稿することを目標としていた。「研究実績の概要」に記した通り、上記研究課題に関して一定の結果を得たが、経済厚生に関する明瞭な結果を年度内に得られておらず、その結果、年度内に海外査読誌に投稿するには至らなかった。したがって、(3)の状況に相当すると判断した。
平成31年度の前半において、昨年度の研究成果を論文として完成させ、関連する海外査読誌に投稿する。そのうえで、研究計画に基づいて「企業の技術選択がFTAの形成ならびにMFTの促進に与える影響」という研究課題に取り組む。その際、モデルが非常に複雑になることが予想されるため、はじめに市場規模が対称的なケースに限定して取り組み、年度内に研究会/学会で報告し、関連する海外査読誌に投稿することを目標とする。研究が順調に進展すれば、市場の非対称性を導入したケースに発展させていく。
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『国際貿易理路の現代的諸問題』(近藤健児・寶多康弘・須賀宣仁編著)
巻: - ページ: 137-150
Discussion Paper Series, Faculty of Economics, Ritsumeikan University
巻: No. 18002 ページ: 1-34