中国国家統計局「国家数据」、遼寧省統計局・国家統計局遼寧調査総隊「遼寧省国民経済和社会発展統計公報」などをもとに経済「回復」継続の現状とその限界、国有企業改革の進展状況を把握した。遼寧(大連)自由貿易試験区の実態調査を2018年8月に実施し、金普新区や保税区と同試験区との重複体制整理や2年間の実績を把握した。また、遼寧沿海経済帯の重要拠点、丹東市を訪問、第二次産業付加価値額の半減(対2012年比)など厳しい経済局面における今後の発展戦略について、政府関係者へのヒアリング等を通じて考察した。同調査とその後の研究結果を『社会システム研究』第40号(2020年3月)で公表した。中国・東北財経大学経済社会発展研究院と共同セミナーを同大学で開催し、「遼寧経済の『回復』」について研究報告するとともに、現段階の遼寧省経済社会の発展目標である「全面振興」の成果と問題点を把握した。 3年間の研究を通じて、大きくまとめて以下の2点が明らかになった。 1.「三供一業」の切離しなど社会主義の遺制克服、先端技術分野への進出、ITを用いた新たな業務展開、混合所有制導入など国有企業改革の進展が確認されたものの、遼寧省経済を支える国有工業は国内・国外での競争力を増大させるまでに至っていない。 2.遼寧省経済はマイナス成長を克服したものの、依然として全国平均を下回り、「体制移行の罠」から脱出するには、なお多くの課題を残していること、外部環境として重要な東北アジアをめぐる国際関係の改善が明確でない中、コロナウイルス感染拡大によって世界経済が縮小していることなどから、中国経済が「二重の罠」を克服するには、さらに一定程度の時間が必要である。 研究成果の中間まとめとして、松野が遼寧省経済と国有企業、曹が中国地方財政調整に関する論文を執筆し、共著『協働する地域』(田中宏編、晃洋書房、2020年3月)において公表した。
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