研究課題/領域番号 |
17K03744
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
坂上 智哉 熊本学園大学, 経済学部, 教授 (50258646)
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研究分担者 |
加藤 康彦 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (80331073)
井上 寛規 京都大学, 経済研究所, 研究員 (90635963)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経済成長 / ネットワーク形成 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究計画では、(1)資本のネットワーク外部性を生産関数に導入したモデルを労働(または人的資本)や技術に外部性がある場合に拡張する、(2)ネットワーク全体の計画者ではなく、個々の国が自国の利得(所得)を最大化するような最適戦略を導出する、(3)このようにして構築されたモデルをシミュレーションする、ことを予定していた。 これらの計画の中で、平成29年度には(2)と(3)に関して以下のような進展があった。まず、資本ストックにネットワーク外部性が生じるような経済成長モデルを構築し、ネットワークの形状変化を伴う移行過程の計算機シミュレーションを行った。シミュレーションでは、各国が毎期の期首にその期のGDPがより大きくなるように他国とのリンクを接続するか切断するかの意思決定を行うものとした。 その結果、ネットワーク維持費用の大きさによってネットワークの動学的な形状変化の過程に違いがみられることが示された。具体的には、定常状態の安定ネットワークが Complete ネットワークや Empty ネットワークとなるケースの他に、Complete ネットワークと Empty ネットワークを交互に繰り返すような周期解の存在も確認された。また、ネットワーク規模が拡大すると、Complete ネットワークが安定となるような「リンク費用負担率」(各国のGDPに比例して参加国はネットワークの費用負担を行うと仮定している)の値は小さくなることが明らかになった。 特に、最後に指摘した結果から、次の政策的含意が得られた。もし、リンク費用負担率を一定とした状態でネットワーク規模を拡大(参加国が増加)すると、ネットワークが瓦解してしまう恐れがある。そこで、ネットワークを維持しつつその規模を拡大する場合には、リンク費用負担率を下げることが望ましい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構築した理論モデルのシミュレーションを手掛けることで、安定ネットワークへの移行過程上でネットワークの形成や切断が繰り返される状況を明らかにできた点、ネットワーク規模を拡大する際には、同時にリンク費用負担率を下げることが望ましいといった政策提言が得られた点は大きな進展であると考えている。この成果は国際コンファレンスにおいて発表を行うことができた。 しかし、当初計画していた「労働(人的資本)や技術の外部性」を明示した理論モデルは完成していない。さらに、シミュレーションの過程で、ネットワーク切断のインセンティブが大国と小国のどちら側にあるかの解明が、新たに必要であるとの認識を持つようになった。 このように、研究のメインの部分では順調に進展しつつも、若干の課題を残していることから、本研究はおおむね順調に進展している、と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、平成30年度の研究目標は「実社会のネットワーク問題を使ったシミュレーション分析」である。昨年度に完成した理論モデルを用いて、この目標に向けた研究を進めたい。 ところで、平成29年度は、ネットワーク維持費用との関係でのネットワークの形状変化を見たが、その中で新たな研究課題が見えてきた。それは、リンク両端のどちらの国の意思でネットワークが切断されたかを解明する必要があるということである。リンクの接続/切断はペア安定性に基づいて決定しており、接続の場合には両国の同意があるものの、切断の場合には片方の国のみが切断を望んでいる場合がある。英国のEU離脱では、切断を望んだのは大国側であるが、一般に離脱のインセンティブが大国と小国のどちらにあるのかを把握することは極めて重要である。EUネットワークのシミュレーション分析を念頭に置く平成30年度は、この点も詳細に分析するつもりである。また、大国が複数ある場合など、初期ネットワーク状況を変化させて分析を行っても同様の帰結が得られるのか、検討する必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算とシミュレーションを行うソフトであるMathematica Standard Editionを購入したが、平成29年度予算のもとでは支出が予算額を若干上回ってしまうため、次年度の会計で処理することとした。
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