研究課題/領域番号 |
17K03744
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
坂上 智哉 熊本学園大学, 経済学部, 教授 (50258646)
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研究分担者 |
加藤 康彦 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (80331073)
井上 寛規 久留米大学, 経済学部, 講師 (90635963)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 経済連携協定 / ネットワーク外部性 / コンピュータシミュレーション / 経済成長モデル / ネットワーク瓦解の要因 |
研究実績の概要 |
Brexitのような国際的な経済連携協定 (Economic Partnership Agreement: EPA) からの離脱はなぜ起こるのか.その疑問を明らかにするために,ネットワーク外部性を組み込んだ Ramsey=Cass=Koopmans 型の経済成長モデルに基づき,コンピュータシミュレーションを行った.具体的には,多数の国が存在する経済ネットワークにおいて,各国が毎期の期首に他国とのリンクを接続するか切断するかの意思決定を行うシミュレーションにより,定常解への移行過程におけるネットワークの形状変化を観察した. その結果,リンク費用負担率の大きさによって定常状態の安定性と移行過程のネットワークが変化することが明らかとなった.確認された定常状態のネットワークとしては,大きく分けて4パターンあり,(1)Complete型ネットワーク,(2) Complete型ネットワークとEmpty型ネットワークを交互に繰り返す周期解,(3) Star型ネットワーク,(4) Empty型ネットワークが存在した. 特に,Complete型ネットワークに収束するためのリンク費用負担率は,ネットワーク規模が大きくなるほど小さくなることから,ネットワーク規模の肥大化がEPAネットワーク瓦解の要因としての可能性が示された.このことは,拡大を続けてきたEUにおいて,英国の離脱(Brexit)が発生した理由と同時にそれを回避する方策をも示唆している.EPAネットワークを瓦解させないためには,加盟国の増加に伴って,費用の負担率を減らす必要がある. この研究成果は『中央大学経済学論纂』第60巻,第5・6合併号 (2020.3)にて刊行されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多くの国が存在する状況での動学的なEPAネットワーク形成とその瓦解の状況をシミュレーションすることに成功し、Complete型ネットワークに収束するためのリンク費用負担率はネットワーク規模が大きくなるほど小さくなることを見出せたことで、本研究の目的はほぼ達成することができた。 その一方で、この研究成果を2020年3月にフランスにおいて発表する予定であった。予定していたコンファレンスでは事前に査読があり、査読者は我々の研究に大きな興味を示してくれた。しかし、新型コロナウイルスの影響でそのコンファレンスが中止になってしまい、欧州の研究者との意見交換の機会が得られなかったことは残念である。 このような理由から、研究のさらなるブラッシュアップは残るものの、ほぼ当初の計画通りに進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
シミュレーション分析により見出したEPAネットワーク瓦解の要因を、理論的に検証する作業に移りたい。同時に、学会等での発表を進め、研究のさらなるブラッシュアップを図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
我々の研究成果は、2020年3月7日にフランス・パリにて開催が予定されていたコンファレンス (International Conference on Modern Research Approaches in Economics, Business Management & Social Sciences) において発表を計画し、当該コンファレンスへのエントリーおよび事前の査読を済ませていた。しかし、新型コロナウイルスのヨーロッパでの急速な拡大を受けて、このコンファレンスが中止となってしまった。そのため、参加予定の坂上と井上の2名分の旅費が使用できなくなった。 次年度には当該研究のブラッシュアップを行うために、多くの研究者との意見交換を行うための環境整備(ウェブカメラやヘッドホンマイクの購入、およびZoom利用費など)、人件費、および学会出張旅費に使用する予定である。
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