本研究の目的は、東アジアにおける「イノベーションのアメリカ化」現象(米国をモデルとするイノベーション政策の推進と知識の国際伝播)の背後にあるアクター間関係を分析し、米国型のイノベーション・モデルの広がりが東アジアのイノベーション、産業発展に与えるインパクトを明らかにすることである。 本研究は開始後に以下のような状況変化に直面した。第一に、研究開始後に表面化した米中ハイテク覇権競争が、「イノベーションのアメリカ化」現象の原動力となってきた国境を越えた人材の国際移動と頭脳循環のありかたに大きな変化を引き起こした。第二に、2020年以降、コロナ禍により、現地調査が実施できなくなった。こうした状況を受け、本研究の軸足を、海外調査が不可欠な医療機器のスタートアップの事例分析から、現地調査以外にも資料が入手でき、かつ「イノベーションのアメリカ化」の非常に重要な事例である台湾の半導体産業の分析にシフトした。これにより、米中ハイテク覇権対立のインパクトも視野にいれつつ、アメリカが東アジアのイノベーションに与える多大なインパクトとその背後にあるアクター間関係の分析を行うこととした。 2022年度は、こうした研究計画のもと米中覇権対立と東アジア、台湾半導体産業にみるアメリカとのイノベーション・リンケージに関する論考の刊行や学会報告を行った。また、米国出張も行うことができた。研究期間終了後の発表とはなるが、ようやく実現でき、この間の変化の大きさを確認することともなったシリコンバレーでの現地調査の成果を取り込んだ研究成果を2023年度以降に刊行したい。
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