本年度は、世界から注目されている米中貿易戦争の背景について、国際政治の視点ではなく、グローバル化によってもたらされたアメリカの国内地域分断の視点から分析した。急速に進展しているグローバル化や国内経済の一体化は、アメリカ国内において大都市が多く立地してグローバル化の恩恵を受けてきた東西両海岸地域と、経済面で相対的に遅れていてグローバル化の負の影響が現れている中部・南部地域との分断構造が形成し、それがトランプ政権を誕生させて米中貿易戦争を引き起こした一因であると指摘した。中国における地域経済一体化の影響分析において、アメリカの事例検討は有益であった。 また、中規模都市に注目して研究を進めた。国内経済の一体化に伴い、地域にとってアクセスの利便化によって域外市場が拡大している反面、市場原理に基づく激しい地域間競争が行われ、相対的に上昇している地域と沈下している地域が見られる。その中で最もダイナミックに変化しているのは、すでに世界的に有名な大都市でも貧困で自力成長が難しい後進地域でもなく、中規模の経済力を持つ地域や都市である。本年度は中国の中規模都市をはじめ、米国、日本、EU、ロシアの中規模都市とも比較しながら検討し、その成果を2021年度に学術書として出版する予定である。 また、分担者の南川高範は新型コロナウイルス感染者数の省別データを利用し、旅行者の移動や財の取引を反映する経済的な省間ネットワークを分析した。その結果、天津、内モンゴル、上海、福建、広東はネットワークの連結点であると指摘し、これらの連結点を介してネットワークが形成されていることを明らかにした。ネットワークを形成する省が必ずしも近距離、近接省間ではなく、物理的な距離が離れた地域間でもネットワークとして結ばれている関係が多いことが示された。
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