研究課題/領域番号 |
17K03755
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
天野 大輔 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (50601689)
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研究分担者 |
板谷 淳一 北海道大学, 経済学研究院, 教授 (20168305)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 累進課税 / 内生的経済成長 / 均衡経路の不決定性 / 租税政策 |
研究実績の概要 |
本研究では異なる選好を持つ複数の家計から構成される動学マクロ経済を想定して、累進型の資本所得税および労働所得税における限界税率(=所得税率の累進度)の変更が経済成長率、資産の分配比率、マクロ経済の安定性(均衡経路の不決定性)にどの程度寄与するのかを明らかにするための理論モデルを構築した。現実的な税率構造を想定するために、限界税率を現時点での複数家計の平均所得と比較した各家計の所得の比率に依存する租税関数を導入した。この関数を前提として各要素所得税の累進度(=租税関数のパラメーター)の変更が、経済成長率および各個人の資産分布に及ぼす影響を比較静学分析として調査した。さらに、そのような税制度の変更が、均衡経路の局所的不決定性を発生させる条件、すなわちサン・スポット的な経済変動が発生しうる条件を緩和するのか否かについても調査した。 これまでの研究実績に関しては、家計の労働供給が内生化され、かつ生産の外部性によって持続的成長が実現する成長経済を基本モデルとすると、時間選好率が異なる2人の個人からなる経済における主な結果は以下のとおりである。(1)家計の労働供給が固定的で、かつ労働の外部性が比較的強い(1以上の)場合に、均衡経路が局所的に不決定的になりうる。(2)労働の外部性の大きさに関わらず、家計の労働供給を内生的にすると、(労働供給が固定的の場合と比較して、)長期的成長率および我慢強い個人の資産比率は高くなる。(3)いずれの要素所得税の累進度を強くすると、(2)のケースにおいて、長期的成長率および我慢強い個人の資産比率に対する負の効果は小さくなる。(4)家計の労働供給および労働の外部性の程度に関わらず、資本所得税の累進度を強くすると、(労働所得税の累進度を強くする場合と比較して、)長期的成長率および我慢強い個人の資産比率に対する負の効果が大きくなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度における主な研究活動では、初めに先行研究に関する詳細なサーベイ(調査)を実施した。また、包括的な累進所得課税と異質な選好を持つ複数の個人が存在する内生的成長モデルの構造や性質を理解した上で、本研究で展開すべき理論モデルを構築するために、数値計算ソフトウェア(Maple)を用いて、先行研究で示されているカリブレーション分析の結果を再現し、そのような再現を通じて先行研究の政策的含意、および導出された分析結果を構成するパラメータの組合せや条件式の妥当性や頑健性を調査した。 次に、先行研究のような包括的な累進所得税の代わりに、資本所得および労働所得からなる要素所得に対する累進課税を想定する理論モデルを構築した。具体的には、税率構造が各個人の要素所得とその社会全体の平均値との比に依存する、より現実的な租税関数を仮定し、各要素所得税率の累進度(つまり、租税関数のパラメーター)の変更が経済成長率および各個人の資産の分配比率に与える効果に関する比較静学分析などの理論的な定性的分析を実行した。さらに、そのような税制度の変更が、均衡経路の局所的不決定性(サン・スポット的な経済変動)を発生させる条件に及ぼす影響を調査し、(要素)所得税の累進度の変更が、マクロ経済の安定性(すなわち、均衡経路の不決定性)との関連性を通じて、長期的成長率や各個人の資産比率に異なる効果を与えうることを示した。さらに、具体的な解を求めるために、2人および3人の異質な個人からなる経済を想定し、カリブレーションによる数量的な分析を実行した。先行研究および諸外国の経済データに矛盾しないパラメータを用いて、累進課税制度の変更が、均衡経路の局所的安定性分析、長期的成長率および各個人の所得比率に与える効果を具体的に計算した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成30年度においては、前年度までに構築した基本モデルにおいて、多数(=N人)の個人からなる内生的成長モデルにおいて、理論的な定性分析で確定しない比較静学分析による長期的効果や安定性分析の符号を確定するために、カリブレーションによる数量的分析を実行する。さらに、カリブレーション分析結果から得られた数値的な結果に関する直感的解釈を加筆修正することによって、より説得的な論文に改良する。さらに、最適な要素所得税率をカリブレーションされた経済モデルから具体的に計算することも予定している。 次に、異質な選好を持つ「多数」の個人が存在する内生的成長モデルを用いて、累進型の資本所得税および労働所得税の累進度の変更(つまり、租税関数のパラメーター)が、均衡経路の局所的不決定性を発生させる条件、経済成長率および個人の資産比率などに与える効果に関する比較静学分析などの理論的な定性的分析を中心に行う予定である。多数の家計からなる内生的成長経済の安定性分析の符号および比較静学分析による長期的効果は、代表家計を前提とする通常のマクロ動学モデルの分析よりも格段に複雑になると予想されるので、近似解や具体的な長期的効果を計算するために、先行研究や諸外国の経済データに矛盾しないパラメータを用いてカリブレーションによる数量的分析を実行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の財政学・公共経済学の学会(国際財政学会:International Institute of Public Finance (IIPF)の年次大会が東京(東京大学)で開催されたため、この出張費用が国内旅費の範囲で抑えられた。また、上記のIIPFの年次大会とパリで開催されたThe Association for Public Economic Theory (APET)の年次大会への出席によって、専門分野に関する海外の著名な研究者と意見交換でき、本研究に対するコメントも頂けたので、セミナー等で招聘するために使用予定していた謝金等を使用しなかったため、その資金を平成30年度に繰り越した。 今年度の使用計画としては、平成30年度においてHue(Vietnam)で開催されるAPET、あるいは専門分野に近い学会であるTaipei(Taiwan)で開催されるThe Society for the Advancement of Economic Theory (SEAT)の年次大会に参加する旅費などを補填するために使用する予定である。
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